今回の話は映画『私の男』の話を書いてみようか。
人気作家、桜庭一樹のベストセラー小説を映画化したものだけど、もちろんこの小説も読んでる。
映画に触れる前に、ちょっと原作の事を書いておこう。
読んだのは2016年の夏、その時の感想はブクログに書いてる。
この小説の感想は一言で言って・・・
気味が悪い!
だからと言って、オレがまったく評価してないかと言うと逆で、かなりの高評価をしてる小説。
ちょっと長いけど、ブクログに残してる原作の感想を引用すると、
なんだろうね、この気味の悪さ。ホラーじゃないのに背中をゾクッとさせる感覚だ。
家族とか親子がテーマなのかもしれないけど、ここで描かれるのは歪んだ愛情だ。これが半端なく気味が悪い。9歳のときに震災で家族を失った花。その花を引き取り養父となった淳悟。この物語は、40歳の淳悟と24歳の花を描いた第一章から、時間を遡る形で描かれている。
第一章は、結婚を目前に控えた花の視点で、新婚旅行後まで。
第二章は、花の夫の視点で、花との出会い。
第三章は、淳悟の視点で、高校2年生の花。
第四章は、花の視点で、同じく16歳の時代。
第五章は、淳悟の恋人の視点で、中学入学前の花。
第六章は、花の視点で、十歳のときの震災から淳悟との生活までを書いている。時代がどんどん遡る構成も珍しいけど、全編を通して流れるある種の気味悪さ。ハッキリと描かれているいるわけじゃないけど、二人の背後に「事件」のようなものを感じさせる描写。それが明らかになったときの、なんとも言えない感覚、この小説、すごい・・・。
主人公の花・・・かわいくない。というか、この小説の気味悪さの原因は、この少女にあると思う。淳悟も病んでるし、こんな親子が居たら、ホント気持ち悪い。
でも、どこかに居そうな気がしてくるんだよなぁ。これは作者の筆力の高さのなせる技だな。
淳悟や花の育った背景なんかも描かれてるんだけど、違和感を感じない。現実にこういう境遇で育つ人も居るだろうな、と思わせる。それだけに淳悟と花の病んでる姿にもリアリティが生まれてる。淳悟と花の感情表現を抑えて描いてることで、気味の悪さが増幅されてる。読者が勝手に想像してしまうのだ。それも悪いほうへ・・・。
時代を遡ることで、最初に見えてなかった謎の答えが徐々に見えてくる。この徐々に見えてくるってところも、作者の腕なんだろうな。一気に謎の答えが判るよりも、章を進める事で少しずつ判ってくるんだが、これなんか、ジワジワと恐怖を感じるような感覚に似てる。初の桜庭作品だったけど、良いものを読んだ。
☆4個
背表紙~
落ちぶれた貴族のように、惨めでどこか優雅な男・淳悟は、腐野花の養父。孤児となった十歳の花を、若い淳悟が引き取り、親子となった。そして、物語は、アルバムを逆から捲るように、花の結婚から二人の過去へと遡る。内なる空虚を抱え、愛に飢えた親子が超えた禁忌を圧倒的な筆力で描く第138回直木賞受賞作。
たしかに凄い筆力。
最後まで読み終わって、第一章を読み返してみると、二人の「これから」が気になる。
って具合に、桜庭一樹の筆力に脱帽してる。
その小説を映画化したものがAmazonプライム・ビデオで配信されてたので、そりゃ観るに決まってる。
って事で、今回は映画『私の男』の話。
この映画、小説の雰囲気をよく再現してる。
ホラーじゃないのに観ていて背中をゾクッとさせる雰囲気は、小説と同じだ。
ただ、雰囲気は小説と似てるけど構成はかなり違っていて、小説が時代を遡る形で描かれてるのに対して、映画ではオーソドックスに時系列に沿う形で掛かれてる。
映画製作上の都合かもしれないけど、この辺りは賛否が分かれそうだな。オレ的には時系列に沿う描写の映画の方も良いとは思うけど・・・。
で、問題なのが主人公を演じる二人、浅野忠信と二階堂ふみ。
問題っていうと、何か良くない事をイメージされるかもだけど、まったくの逆。
特に淳悟を演じる浅野忠信・・・
上手すぎる!
なんて言うか役にハマり過ぎていて、映画に変なベクトルが働いてる気がするww
ほら、浅野忠信って・・・「立ってるだけでも存在感のある役者」だし、そういう人がこの映画の主人公を演じると、逆に周りから浮きそうな危うさも有るんだよな。
この映画では、周りから浮くか浮かないか、ギリギリの所でバランスを取ってるんだけど、演技が上手すぎて観ているオレの方が引いてしまいそうだったww
もうちょっと存在感の薄い役者でも良かったような気もするけど、まぁ、こんなのはオレの勝手な妄想なんで、浅野忠信の演技が素晴らしい事は間違いない。
小説も映画も『私の男』が描いてるのは、ズバリ・・・
歪んだ愛情!
この歪み具合が凄い。
何が凄いって、実の親子で・・・
セックス!
実の親子だぞ、こんなもん許されるわけ無いだろ。近親相姦じゃないか(泣)
最近よくある虐待なんかとは違って、この作品の中の主人公二人は、お互いに求め合ってるんだから凄い。それも日常的に・・・。
小説を読んだ時はぶっ飛んだけど、この辺りの描写は映画も忠実に描いてる。
二階堂ふみが浅野忠信の指を口に咥えるシーンが何度か出てくるんだけど、濃厚すぎていろいろ想像させられる。
想像どころかモロに濡れ場を演じてるシーンも有るし、さすがはR-15指定ww
この映画、実の親子がセックスするだけの映画じゃない。
ある日、セックスしてる場面を近所の老人に目撃されるんだけど、そこから殺人事件にまで発展してしまう。
北海道の冬、流氷の上で対峙する二階堂ふみと藤竜也。
二階堂ふみのことを想い、遠縁の親戚へ預けようと説得する藤竜也・・・。
藤竜也が優しい口調で言う。
あの男とあんたはね・・・
それを遮るように二階堂ふみが叫ぶ。
呑まれて消えればいい!
体当たりされて流氷の上に転ぶ藤竜也・・・。
いやぁ、凄い。
小説でもこの場面は一つのヤマ場だったけど、映画でもなかなかの迫力。
ただね、ここでチョット減点材料も・・・。
何が減点かと言うと、二階堂ふみの次のセリフ。
藤竜也に向かって鬼気迫る表情で叫ぶんだけど・・・
淳悟と血の繋がってる親子なのは知ってる!
いやいや、いきなりここでこのセリフは無いだろ。
原作を読んでる人間は、淳悟と花が親子なのは知ってるけど、原作を読まずに何の予備知識も無い人が観たら「?」になるんじゃないか。
北海道南西沖地震で孤児になった花を淳悟が引き取って、その二人がセックスしてるってのは良いとしても、ここでいきなり「実の親子」なんて持ち出されても頭の中は「?」が乱舞するんじゃかと他人事ながら心配ww
この点、小説の方はよく書けていて、花の出生の秘密、淳悟の過去なんかを丁寧に描写してる。わずか16か17しか歳が違わない親子の秘密にも説得力のある物語を与えてる。
この淳悟の過去と花の出生の秘密だけでも、別に一本の映画が出来そうなぐらいの濃密な物語だ。
映画の尺の都合上、この部分を丸ごとカットしてるんだろうけど、これはオレ的にはマイナスだよなぁ。
原作を読んでない人間からすれば、いきなり二階堂ふみが「淳悟と血の繋がってる親子なのは知ってる!」なんて言いだすと、
えっ、この二人、実の親子なん?
何で?
ってなるだろ。
その経緯も明らかにされてないとなると、映画で描こうとしてる「タブーを破る」歪んだ愛情、これのインパクトがちょっと弱くなるんじゃないか。
まぁ、実の親子ってのが明かされた後も映画は続く。
北海道を出て東京で暮らす淳悟と花にまたも危機が訪れるんだけど、ここで第二の殺人事件。
浅野忠信の「内に秘めた」狂気、凄いな・・・。
狂気というか歪んだ愛情だな。それ以上に凄い(怖い)のが花を演じる二階堂ふみの魔性ぶり。
小説とは時間の進み方も違うしラストも異なってるけど、最後のシーン、花の婚約者を交えて三人で食事をする場面だ。
浅野忠信が婚約者に向かってボソッと言う・・・
お前には無理だよ・・・
あっけにとられる婚約者、無表情のままの二階堂ふみ。
恐ろしすぎるww
そして、テーブルの下では・・・
これ以上は観てのお楽しみww
浅野忠信の顔のアップで映画は終わるんだけど、この表情は何とも言えないな。
『私の男』は小説も映画も気味が悪い。
気味が悪いだけじゃない、ここに描かれてるのは
狂った男と女!
こういう人間は現実の世界にも居そうな気がする。
そんな気にさせるのが『私の男』という作品。
花の言葉・・・
全部、私のもんだ。
いつものバイト君の下書きチェック

凄そうな映画ww

いろいろ凄いぞww
近親相姦だからな・・・

・・・・・・

映画もそこに至る事情を描いてればもっと凄いんだけどな

これだけでもお腹一杯
ゲップが出そう・・・

お前、とりあえず本を読め!^^

・・・・・・
この映画、悪くはないんだけど、まずは原作を先に読む事を強くオススメ。
原作を読んでからの方が、いろいろと背後の事情も分かるし、映画には描ききれなかった物語も楽しめる。
直木賞の受賞作って、オレにとっては当たりハズレが極端だけど、この『私の男』は直木賞受賞作の中では当たりの部類。





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