この映画、もう何十回観たか分からないぐらい観てる。
テレビでも放送された事はあるし、DVDも持ってるし(DVDが普及する前はVHSのビデオも持ってた)、確実に50回前後は観てるはず。
超有名映画『第三の男』だ。
土曜日の昼間、時間が出来たんでAmazonプライム・ビデオを物色してたんだけどね。
何か面白い映画、配信してないか?
って、いろいろ漁ってたんだけど、そこで見つけたのが『第三の男』。
しかも吹替え版だ。
頭の冴えてる時には字幕で良いけど、土曜日の昼間、頭はまだ本調子じゃない。
こういう時には、気楽に観ることができる吹替えに限る(マサトの流儀w)。
この映画、何十回も観てる映画とはいえ吹替えで観た事はない。
名シーンと言われる部分も名セリフも頭に入ってるけど、声優がどんな調子で喋ってるのかも気になるし、初めて吹替え版で観てみた。
って事で、今回の話は久々に超名作『第三の男』を観た、って話。
古い映画(1949年製作)なんで、知らない人も居るかもだけど、映画のランキングなんかでは必ずランクインしてる傑作映画。もちろんカンヌ国際映画祭グランプリ受賞作だ。
簡単にストーリーの流れに沿って、オレの感想なんかを書いてみようか。
アメリカの売れない作家ホリー・マーチンは旧友のハリー・ライムに呼ばれて、米英仏ソの四分割統治下にあったウィーンを訪れる。
駅に迎えに来てない事を不振に思い、ハリーのアパートを訪ねるんだけど・・・。
ホリーが知らされたのは、ハリーが交通事故で死んだという知らせ。
もうね、冒頭から惹き込まれること間違いなし。
なんと言ってもアントン・カラスのテーマ曲がすこぶる良い。
オーストリアの民族楽器チターの音色が素晴らしいのだ。
『第三の男』は知らなくても、この曲は誰でも聴いた事があるだろ、っていう有名な曲。明るい音色、明るい旋律なのに、どことなく哀愁を帯びた曲が、これから始まる物語への案内役だ。
CMでも使われてるし、鉄道各社の発車メロディにも使われてる曲だ。
葬儀に出席したホリーは、英国軍のキャロウェイ少佐から、ハリーが闇取引の親玉だった事を聞かされるんだけど、信じる事が出来ない。
そこへハリーの恋人だった女優のアンナが現れ、彼女への興味もあってハリーの死の真相を探ろうと決意。
善良で正直なアメリカ人、ホリーなんだけど、旧友が悪の組織の親玉だなんて信じられないわけ。ホリーを演じるジョセフ・コットンも良い味を出してるんだけど、それ以上に良い味なのがキャロウェイ少佐を演じるトレヴァー・ハワード。
映画『カサブランカ』のルノー署長のような雰囲気(最初は嫌な奴なんだけど、ラストでは良い人ww)。
どっちかと言うと大根役者と言われるジョセフ・コットンだけど、大根なだけに相対するトレヴァー・ハワードが光ってるww
胡散臭い人間がいろいろとホリーに近づいてくるんだけど、ホリーはだんだんと事件の核心に迫って行く。そんな中、ハリーのアパートの門番が重要な告白をする。
交通事故が起こった時に、誰も知らない「第三の男」が現場に居た事・・・。
二人までは解ってるけど、「第三の男」は誰なのか?
いろいろ探しまわってるうちに、何者かに襲われるホリー。
そして、門番は殺されてしまう・・・。
段々とサスペンス色が濃くなってきた。
今どきの映画と違って、殺されるシーンをズバリ描写してないし、ホリーが悪者に追われるシーンもアクション映画のように飛んだり跳ねたりしてない。
モノクロの画面の中で淡々と描写されるだけだ。
この描写が良い!
この映画、全編を通じてハイコントラストのモノクロで撮られてるんだけど、この色調が良いんだなぁ。
モノクロの映像美とでも言うか、BGVとして部屋に流してもお洒落な映像。
偽造旅券が発覚してソ連軍に逮捕される事になったアンナ。
それとは知らずにアンナの部屋から出てきたホリーが目撃するのは・・・。
ここは、最初のヤマ場と言っても良いな。
映画好きなら、このショットは見た事があるだろうけど有名なショットだ。
ホリーが目撃するのは・・・
交通事故で死んだはずのハリー!
暗闇の中、部屋の明かりに照らされて浮かび上がる顔・・・。
ハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)の少し照れたような顔が、むちゃくちゃ印象的だ。
ここは映画史に残る名シーンと言っても良いだろうな。
てか、ここからは名シーンが続々と出てくる。
ホリーはキャロウェイから、ハリーが粗悪ペニシリンの密売で多数の犠牲者を出した悪人だと聞かされる。
ハリー逮捕に協力するように求められるホリー・・・。
あらためて観覧車の下で再会するホリーとハリー。
話すうちに、自分の旧友が凶悪な人間だと悟り、キャロウェイの話が事実だと思い知るホリー・・・。
もうね、ここも超有名なシーンだな。
観覧車に乗った二人・・・。
眼下に見える小さな人々を見ながらハリーが言うわけ。
あの点の一つが永遠に止まる度に税抜きで2万ポンドやる、と言われたら断るかね?
ここで言う「あの点」ってのは、もちろん観覧車から見下ろしてる人間の事を言ってるんだけど、人の命を何とも思ってないハリーの一面を表す言葉。
その言葉を聞いてギョッとするホリー・・・。
で、観覧車を降りた二人・・・。
ここで出てくるのが、映画史に残るこの超有名なセリフだ。
You know what the fellow said―in Italy, for thirty years under the Borgias,
they had warfare, terror, murder and bloodshed,
but they produced Michelangelo, Leonardo da Vinci and the Renaissance.
In Switzerland, they had brotherly love, they had five hundred years of democracy and peace―and what did that produce?
The cuckoo clock.
誰かがこんなこと言ってたぜ。
イタリアではボルジア家30年間の圧政で戦火・恐怖・殺人・流血の時代だったが、ミケランジェロやダ・ヴィンチ、偉大なルネサンスを誕生させた。
スイスはどうだ?
麗しい友愛精神の下、500年にわたる民主主義と平和が産み出したものは何だと思う?
鳩時計だとさ!
まぁ、実際には鳩時計が誕生したのはドイツだし、ボルジア家がルネサンスを産んだって事は無いんだけど、ハリー・ライム役のオーソン・ウェルズが書いたこのセリフ、ハリーの人間性を表す言葉としては秀逸すぎる出来栄え。
このセリフだけで、ハリーの思考傾向、人間性が現れてる名セリフだ。
偽造パスポートの件でついにソ連軍に逮捕されたアンナ。
ホリーは彼女の釈放と引き換えにハリー逮捕に協力することをキャロウェイに申し出る。
無事に釈放されたアンナを駅で見送るホリーだけど、ハリーが生きていることを知って列車に乗る事を拒むアンナ。
やがて、ホリーとキャロウェイはハリーを発見して・・・。
いよいよ物語も大詰め。
ここも有名だけど、ウィーンの下水道での追跡劇が展開。
旧友に追いつめられたハリーは拳銃で撃たれて命を落とすんだけど、見どころはこの後。
何が見どころって、ハリーの葬儀の後のホリーとアンナ。
静かにアンナに好意を寄せていたホリーと殺されたハリーの元恋人のアンナ。
超有名なラストシーンだけど、並木道でアンナを待つホリー。
そんなホリーに一瞥もくれずに硬い表情で歩き去るアンナ・・・。
声をかける事もできない男と、ただ真っすぐ、前だけを見て歩く女・・・。
バックに流れるチターの音楽・・・。
名シーン!
このまま映画はThe Endになるんだけど、エンドマークが消えた後に余韻がある。
ハリウッドのアクション映画みたいに、観終わった後で、あ~、スッキリしたぁ!って爽快感もないし、日本のお涙頂戴モノみたいに、ジメジメした重苦しさも無い。
心地よい余韻!
舞台となってる戦後のウィーンだけど、連合国に分割統治されていて、そこに偽造パスポートを持つチェコ人のアンナってのが一つのアクセントになってる。
これが普通にオーストリア人じゃなくて、チェコ人ってのがこの映画に奥行きを与えてるんだよな。
ソ連の事は嫌悪してるけど地理的に東欧圏に組み入れられてるチェコ、優しく接してくれるホリーに好意を抱きそうになるけど、この町を空爆したのはアメリカ・・・。
当時の世界情勢を背景にしてこの映画を観ると、ラストシーンでホリーに一瞥もくれなかったアンナの心情も少し解ったような気になる。
親切で人を疑う事を知らない正直なアメリカ人を大根役者のジョセフ・コットンが演じていて、大根であるがゆえに、これがこの役柄にピッタリ。名優のオーソン・ウェルズ、トレヴァー・ハワードの演技と良いコントラストになってて、画面の色調だけじゃなくて、役者陣のコントラストも楽しめるww
オーソン・ウェルズは『市民ケーン』の監督としても有名だな。
この映画、サスペンスとも言えるし、男女の心の機微を描いた恋愛映画として観る事もできる。
この映画の持つ悲観的、虚無的、退廃の雰囲気は、大雑把に言えばフィルム・ノワールの範疇に入る映画だ。
土曜日の昼間、半分寝ぼけてる頭で観たけど、やっぱり歴史に残る名画は何度観ても面白い。
いつものバイト君の下書きチェック

これは超有名だから観てるけど・・・
オーソン・ウェルズって『市民ケーン』の監督なんですか?

出演もしてるぞ

一度、観てみたいと思ってるんですよ^^

あらすじを教えてやろうか?^^
こっちも有名なセリフが出てくるし・・・

止めてください!
観る楽しみが無くなる!

・・・・・・
まぁ、映画なんてのは、初見は何の先入観も持たずに観るに限る。
また気が向いたら『市民ケーン』の話でも書いてみようかな。
そうそう、村上春樹も『映画をめぐる冒険』の中で『第三の男』に触れている。
他にも『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の中にも『第三の男』に言及してる箇所が有った。
私は彼女が公園の中のまっすぐな道を歩き去っていくうしろ姿を『第三の男』のジョセフ・コットンみたいにじっと見ていた。
こうして70年も前の映画が、現代の人気作家に言及されてると嬉しくなるな。









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