スパイ映画というと「007」シリーズや「ミッション:インポッシブル」シリーズを思い浮かべる人も多いだろうけど、今回は毛色の異なるスパイ映画。
「007」や「ミッション~」のような派手なアクションは面白いしオレも好きだけど、そういうドンパチが無くてもヒリヒリするようなスリルを味わえる映画を観た。
原作は『寒い国から帰ってきたスパイ』、『裏切りのサーカス』で有名なスパイ小説の大家(と言っても良い)ジョン・ル・カレ。
9.11テロ後のドイツを舞台にどんなヒリヒリ・ドキドキが描かれるのか・・・。
って事で、今回は映画『誰よりも狙われた男』を観ての感想を軽く書いてみようか。
この映画はフィリップ・シーモア・ホフマンの遺作(最後の主演作)だけど、ホフマンを初めて観たのは『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(1992年)で演じてた甘やかされた高校生役。クソ生意気で小狡い高校生を好演してたけど、2014年公開の『誰よりも狙われた男』では渋い中年(やり手のスパイ)になってる。
凄い変わりよう!
この中年のスパイ、男前でもないしどこにでも居そうなメタボな中年男なんだけど、それだけ映画に妙な現実味を与えてる。
どういうストーリーなのかをamazonプライム・ビデオの紹介文から引用しておくと、
『裏切りのサーカス』のジョン・ル・カレが仕掛ける現代のリアル諜報戦。ドイツの都市ハンブルクに密入国したあるイスラムの若者に目を付けた、諜報機関でテロ対策チームを率いるバッハマンは、テロリストへの資金支援に関わるある大物との繋がりを発見し、危険なミッションに乗り出す。
というもの。
9.11テロ以降、イスラム過激派の動向に神経をとがらせてるドイツの諜報機関。
チームを率いるバッハマン(ホフマン)、イスラムの過激派、銀行家、左巻きの弁護士、さらにはCIAまで加わってくる。そこへもってきて組織内の対立なんかも枝葉として描かれていて超リアルなストーリー展開。
あまり細かく書くとネタバレになるので書けないけど、印象に残ってるシーンをふたつだけ紹介。
ドイツに密入国したイスラムの青年を保護してる左巻きの女弁護士を拘束して取り調べる場面。
この女弁護士を手際よく拘束した後、秘密の取り調べ室でバッハマンが問いかけるんだけど、こんな会話が行われる。
これは犯罪で・・・
座れ
テロリスト御用達のソーシャルワーカーだろ
(中略)
あんたを調べたよ
左巻きの弁護士
裕福な家庭、父は判事
親父さんが泣くな
脅したつもり?
もう帰っていい?
どこへ?
正義の味方気取りの仲間の元か?
(沈黙)
連中は誰かに斬首されることもない
子供を爆殺されることもない
リゾート地や大都会に居るんだからな
よくもそんな・・・
教えてくれないか
俺は規則を破ったか?
憲法の精神を踏みにじったか?
そう騒ぎ立てるか?
どうだ?
(沈黙)
あんた今どこに居る?
分かってないだろ
ここは現実の世界だ
我々はイスラムの過激派と戦ってるんだよ
あんたは一線を超え向こう側へ行った
この尋問の場面のバッハマン、凄い迫力。
決して大きな声を出すわけじゃなく、静かに話してるんだけど迫力はそうとうなもの。
『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』で言い訳ばかり並べ立てる高校生を演じてた役者がこんな迫力を見せるんだから驚いた。
自分のやってる事は正義だと疑わない女弁護士に、物静かな口調で有無を言わせない迫力。
そう言えば、ここのシーンでちょっと思い出したのが漫画「ジョジョの奇妙な冒険」に出てくるウェザー・リポートのセリフ。
自分が『悪』だと
気づいていない・・・
もっともドス黒い
『悪』だ・・・
これはバッハマンの言葉に通じるものがある。
半ば犯罪スレスレの方法で拉致してきた女弁護士を取り調べるバッハマン、これはなかなか見応えのあるシーン。
もう一つの印象深いシーンはラスト。
紆余曲折の末、無事に作戦成功と思いきや・・・
バッハマンが叫ぶ・・・
ファ~ック!
どうしてファックと叫ぶのか、その理由を書くとそれこそネタバレになるww
このシーンのバッハマンの表情もかなり強烈。
まさに魑魅魍魎が蠢く現代の国際諜報戦を描いた映画と思わせるラスト。
派手なアクションも無いし秘密のハイテク装備も出てこない映画だけど、それだけにリアリティは充分。
てか、タイトルの『誰よりも狙われた男』ってのは、う~ん、このラストのために有るような気もしてくる。
一番狙われていたのは実はバッハマン自身だったんじゃないかと思えて仕方ない(原題は『A Most Wanted Man』)
そうそう、この映画には銀行家の役でウィレム・デフォーも出演してる。
ウィレム・デフォーといえば『プラトーン』で仲間に射殺されるエリアス軍曹が鮮烈な印象(他にも『スパイダーマン』で悪役を演じてる性格俳優)
今回は父親の残した怪しい取り引きの後始末に頭を悩ませる銀行家を好演してるので、こちらも注目しておきたい一人。
いつものバイト君の下書きチェック

これ実話なんですか?

実話じゃないだろ
ジョン・ル・カレが書いた小説が原作

その人、有名なんですか?

スパイ小説の大家だわ
『寒い国から帰ってきたスパイ』なんか今でも読まれてる名作

読んだ事あるんですか?

当たり前!
高校生の時に読んだぞ

今回の映画の原作は?

それは読んでない

・・・・・・
まぁ、原作を読んでなくても充分に楽しめる映画なのは間違いない。
『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』やアカデミー男優賞受賞作『カポーティ』とは違ったP・S・ホフマンを堪能できる映画だった。





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