オレが中学生の頃なんて、ショート・ショートってのが流行ってた。
有名どころでは星新一のショート・ショートとかね。
どんな話かというと、短編よりも短い、文庫本で2~3ページの物語だ。そういう物語を一冊にまとめた文庫本がブームだった。どこの本屋にも置いてたからな。
第一人者の星新一の他にも筒井康隆なんかもショート・ショートの本を出してたし・・・。
近頃じゃ、てっきりショート・ショートの本を見かけなくなったけど、たまには読んでみたいと思ってるぞ。
で、今回は短編集の話でも書いてみようか。
ショート・ショートもそうだけど、短編ってのは良いよね。
何が良いかって・・・
ちょっと時間が空いた時に気軽に読める!
打ち合わせの時間まで少し間があるとか、電車で少し移動するとか、寝る前にちょっと読むとか・・・。
これが長編なんかだと、寝る前に読み始めると、結局、徹夜になってしまう事もあるけど、短編だととりあえず物語は終わるんでね、睡眠不足になることもない。
先日、本屋に行った時に買っておいたものだけど、
寝る前に気軽に読める本・・・
を探してた時に見つけたものだ。
集英社文庫編集部が編集したものだけど、これ・・・。
『短編工場』
12人の作者の12の短編をおさめた文庫本なんだけど、これが・・・
すごく良かった!
短編集っていうと、どうしても「作品の良し悪しの差」が出てくる事が多いし、一冊の中には、う~ん・・・って首をひねりたくなるものが混ざってる事もあるけど、この一冊は・・・
粒ぞろい!
余韻の残るもの、涙をさそうもの、いろいろ考えさせられるもの・・・実に様々なタイプの短編が収録されてる。
書いてる作家も売れっ子の有名作家ばかりだし、下手な長編を読むよりも楽しい。
それぞれの作品に作者のカラーも出ていて、
あ~、これは道尾秀介っぽいな・・・
なんて納得できたりする。
文庫本の背表紙に書かれてる紹介文から引用すると、
読んだその日から、ずっと忘れられないあの一編。思わずくすりとしてしまう、心が元気になるこの一編。本を読む喜びがページいっぱいに溢れるような、とっておきの物語たち。2000年代、「小説すばる」に掲載された短編作品から、とびきりの12編を集英社文庫編集部が厳選しました。
ってことで、各12編、かる~く紹介してみる。
- 『かみさまの娘』桜木紫乃
- 『ゆがんだ子供』道尾秀介
- 『ここが青山』奥田英朗
- 『じごくゆきっ』桜庭一樹
- 『太陽のシール』伊坂幸太郎
- 『チヨ子』宮部みゆき
- 『ふたりの名前』石田衣良
- 『陽だまりの詩』乙一
- 『金鵄のもとに』浅田次郎
- 『しんちゃんの自転車』荻原浩
- 『川崎船』熊谷達也
- 『約束』村山由佳
『かみさまの娘』桜木紫乃
霊能者の母を持つ女性の心情を描いてるんだけど、これがね、一筋縄ではいかない、複雑な女性心理を巧みに描いてるんだよなぁ。
カミュの『異邦人』を引用してるんだけど、なるほど、『異邦人』に通じるものが有るのかもしれない。『異邦人』では殺人の動機を「太陽がまぶしかったから」って言う有名なセリフが有るんだけど、うん、そういう理屈では割り切れない女性心理を描いてる。
- 作者: カミュ,窪田啓作
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1963/07/02
- メディア: ペーパーバック
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『ゆがんだ子供』道尾秀介
道尾秀介らしい、ちょっとホラーっぽい短編。
一人のサラリーマンが駅のホームで少年と出会うんだけど、少年が三つの質問を投げかけてくる。こちらからの質問は許されていない。
読んでいてゾクゾクした作品だ。
質問の答えを読んだ時は、背中に冷たいものが走ったからな(涙)
さすが道尾秀介、ここでも「飛び道具」を駆使してる。
『ここが青山』奥田英朗
会社が倒産して「主夫」となった主人公。
妻が働きに出た後は、息子を幼稚園に送って、家事に励むんだけど・・・。
こういう生活も有りだよね!
と思わせる温かい小説。
こういう奥さんが居たら、旦那は幸せだろうな・・・
と思わせてくれる。
『じごくゆきっ』桜庭一樹
女子高生と少し頭の弱い女性の副担任が駆け落ちする物語。
なんの脈絡もなく、いきなり誘われるがまま副担任と駆け落ちする女子高生。
この辺りの描写、桜庭一樹らしい。根っこの部分は『私の男』と同じような重苦しいテーマが横たわってるように感じる。
ラストの余韻は、女性の逞しさを現してるのかもな。
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/04/09
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『太陽のシール』伊坂幸太郎
同じ作者で『週末のフール』って長編が有るんだけど、舞台設定はほぼ同じと言っても良い。三年後に隕石が地球が衝突するというもの。
地球最後の日を平穏に迎えるべく仙台で静かに暮らす夫婦。そこへ長年の夢だった妻の妊娠・・・。
無事に産まれても三年しか生きられない子供を産むべきか・・・。
重いテーマを伊坂幸太郎らしく、軽いタッチで描いてる。
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/06/26
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『チヨ子』宮部みゆき
宮部みゆきは懐の深い作家だし、実際にいろいろなものを書いてるんだけど、これはファンタジーっぽい小説。割りの良いアルバイトに応募した女子大生は、ウサギの着ぐるみを観て風船を配る事になったんだけど・・・。
そこで目にしたものとは・・・。
宮部作品らしく、ちょっと「毒」のある描写がアクセントになってる。
『ふたりの名前』石田衣良
これは泣いたなぁ。
同棲してる男女の話。収入もそこそこ有って、お互いに自分の時間を大事にしてる今風のカップルだけど、一匹の猫を飼う事になって・・・。
短編なのに物語の前半と後半で、主人公二人の印象がガラリと変わる描写は秀逸。
有川浩の『旅猫リポート』を彷彿とさせる内容で、年甲斐もなく涙がポロリと零れてしまった。
- 作者: 有川浩
- 出版社/メーカー: 講談社
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『陽だまりの詩』乙一
これも深いな・・・。
人類が滅亡して一人残された男とアンドロイドの物語。
と思っていると、最後に胸の詰まるようなどんでん返し。
いろいろ印象的な言葉が書かれてる。
例えば・・・
私は知った。
死とは、喪失感だったのだ。
なんとも言えない読後感だったな(泣)
『金鵄のもとに』浅田次郎
終戦直後の日本。復員してきた主人公が目にしたのは、玉砕したはずの部隊の生き残りを自称する乞食(物乞い)。
怒りがこみ上げた主人公は・・・
って話なんだけど、物語全体を包み込む哀愁は浅田次郎らしいな。
さりげなくカニバリズムをストーリーに織り込んでるんだけど、大岡昇平の『野火』を思い出させるような筆致。
- 作者: 大岡昇平
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『しんちゃんの自転車』荻原浩
荻原浩って、こんなのも書くの!?
ちょっとビックリした。
冒頭は、戦後間もない日本。まだまだ皆が貧しかった時代だけど、夜の11時、しんちゃんが自転車に乗ってやって来た。
一緒に池の祠を見に行こう・・・。
自転車に二人乗りして池に向かった二人が見たものは・・・と言うよりも、別な意味でのどんでん返し。
さすが荻原浩、上手いんだよなぁ。
『川崎船』熊谷達也
父と子の情愛を描いた傑作。
物語全体を通して、会話はすべて東北弁で書かれてる。
この東北弁が効果的。たとえば場トリの緊迫感、狭い村社会での生活、鬱屈した若者・・・いろいろ凝縮された描写は、
お見事!
父親に不満を持つ息子が、最後には父親の愛情を知る場面・・・
オレも泣いた!(涙)
『約束』村山由佳
四人の少年。そのうちの一人が不治の病になり・・・。
友達を助けるべく、タイムマシンを作って、未来から医者を連れて来ることを思い付いた少年たち。
小学校3年生が主人公なんだけど、彼らも内心では解ってるのだ。
タイムマシンが出来る可能性なんて、0.000001パーセントの可能性も無いことを・・・。
でもね、文章が泣かせる。
たとえそれがバカげた夢物語に過ぎないとしても、最初から何もかもあきらめてしまったら、0.000001パーセントはたちまち完全な0になってしまう。
すべてをあきらめたやつのもとに、奇跡は起こらない。
重松清の小説の雰囲気だけど、この短編集の最後を飾るのにふさわしい小説だった。
って事で、今回は期待以上に読みごたえのあった短編集を紹介してみた。
少ない頁数の中に凝縮された世界・・・
それが短編の魅力!
だと思ってるぞ。
しばらく短編にハマりそうな予感だ。
いつものバイト君の下書きチェック
バイト君:集英社っていうと「ジャンプ」のイメージですけど、なかなか良い本も出してるんですね~ww
ジャンプ・・・
バイト君:だって文庫ってイメージ無いでしょ
・・・・・・
たしかにイメージは大切かも。
オレも出版が集英社だから、実際のところそんなに期待してなかったしww
まぁ、こういう誤算は大歓迎だけどな!
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