子供の頃に読んだ小説を大人になって読み返すと新しい発見があったり、以前とは異なる読後感だったりして自分でも驚くことがある。
先日も夏目漱石の『坊っちゃん』を再読したけど、子供の頃に読んだ印象とはエライ違いで驚いた。
大人になって多少はひねくれた目で世の中を見るようになったせいかもしれない。
【読書】夏目漱石の『坊っちゃん』は歳を重ねて読むと景色が違って見える!って話
で、今回は芥川龍之介を再読してみた。
いまさら芥川って思われるかもしれないし、自分でも再読しようとは思ってなかったんだけど、キッカケは280円文庫ww
本屋をブラブラしてる時にたまたま見かけたんだけど、文庫本が一冊280円(古本じゃなくて新品)
これはかなり安いww
280円文庫ってのは、著作権の切れた日本文学の名作を安く売りだしてるシリーズ。
最近は文庫本でも千円を超えるものが増えてるし、280円って価格は破格と言っても良い。
帯に詐欺まがいの美辞麗句を並べ立ててる新作の駄作を買うよりは絶対に良いと思ってる(何度も帯の文章に騙されて駄作をつかまされたしww)
280円で名作に触れることが出来る!
って事で、数十年ぶりに芥川龍之介を読んでの感想を軽く書いてみようか。
芥川龍之介を最後に読んだのは小学生の時。
国語の教科書に載ってたし、担任の教師から勧められて本屋で文庫本を買ってきたはず。
で、オレの中での芥川龍之介のイメージは・・・
説教くさい!ww
例えば『蜘蛛の糸』は、地獄に堕ちた悪人・犍陀多(かんだた)に向けてお釈迦様が一本の蜘蛛の糸を垂らす話だけど、子供心に思ったのは自分勝手な事をやっちゃいけない、周りの人の事も考えなきゃいけないというような、まぁ、学校の先生が喜びそうな感想だった。
『羅生門』も同じような感想を抱いたはずだし、『杜子春』は身の丈に合った生活が大事、『鼻』は人間にはみんな個性があるから個性を大事にしよう、そういう説教くさい小説だと思ってた。
で、数十年ぶりに読んでの感想だけど・・・
文章の切れ味が鋭い!
そりゃ少しばかりは説教くさい面もあるけど、それをはるかに凌駕する情景の美しさと心情描写。
芥川龍之介の文章がこんなに切れ味のある文章だったとは・・・。
切れ味のある文章で美しい情景や心情を描いてるのは凄い。宮本輝の『蛍川』も美しい日本語で情景を描写してるけど、モザイク画のような緻密な文章の『蛍川』と比べると、芥川龍之介の文章はカミソリの切れ味(よく解からん例えになったww)
簡素で平明、写実的な文章で「小説の神様」と呼ばれる志賀直哉に匹敵するんじゃないかと思った。
この280円の文庫本には『鼻』、『芋粥』、『蜘蛛の糸』、『杜子春』、『トロッコ』、『蜜柑』、『羅生門』の7篇が収録。
中でも『蜜柑』は衝撃だった・・・。
日本がまだ貧しい時代、奉公先へ向かう少女と汽車に乗り合わせた「私」。
三等切符を握りしめた垢ぬけない少女を毛嫌いしていた「私」の気持ちを一瞬で変えた出来事とは。
これね、ラストの色彩感が凄い。トンネルをいくつも通過する蒸気機関車、その吐き出す煙で辺りは陰鬱な風景に見える。小説もなんだか薄暮のようなどんよりした雰囲気で進むけど、最後の最後、薄ら寒い雰囲気の中で宙に舞う蜜柑の色彩感。
蜜柑だけが色を持ってるように感じられる描写、「私」の心情の変化、これは芥川龍之介の大傑作。
子供の頃は大して感じるものがなかった短篇だけど、今回はノックアウトされた(これだけでも280円の価値あるww)
子供の頃の感想と大きく変わったのは『蜘蛛の糸』。
地獄から抜け出すために細い一本の蜘蛛の糸を登り始める犍陀多。だけど、犍陀多に続いて次から次に蜘蛛の糸を登って来る人間が・・・。
自分の事だけを考え他者の事は顧みず、下に続く人間たちに悪態をつく犍陀多。その姿を見てお釈迦様は蜘蛛の糸を切ってしまうって話だけど、大人になったオレの感想は・・・
理不尽すぎる!ww
これね、見ようによっては犍陀多が気の毒ww
生前、何も良い事をしてこなかった悪人・犍陀多の唯一の善行は道端に居た蜘蛛を踏み殺さなかった事。これだって、別に蜘蛛が可愛そうだから踏み殺さなかったわけじゃない。単に歩くのに邪魔にならないから踏み殺さなかっただけ・・・。
これだけで「善行認定」されて蜘蛛の糸を垂らされるわけだけど、こんなもん、普通に生活してる人間ならほとんど全員が「善行認定」合格だろww
で、蜘蛛の糸を登り始めた犍陀多が地獄を見下ろす高さまで登ってきたところで蜘蛛の糸をちょん切るとか・・・
お釈迦様って・・・
何様だよ!?
って思ってしまった(まぁ、お釈迦様なんだけどww)
ほとんどお釈迦様の気まぐれで垂らされた蜘蛛の糸、こんなものに振り回される人間はたまったもんじゃない(まぁ、犍陀多は悪人なんだけど)
自分だけの力、人間の力ではどうにもならない事がある、そんな理不尽さを描いてるように思えてしまった、
理不尽な世界を切れ味鋭い文章で描いてるけど、この切れ味は凄みさえ感じさせる。
『杜子春』や『トロッコ』も子供の頃とは印象が変わった作品。
歳をとったせいなのか、こういう短篇でも目に涙がにじんでくる。普通の人間なら誰でも持っている親子の情愛を描いたもの、後先を考えない無邪気な少年を描いたもの・・・歳をとって読むと芥川龍之介の文章が創り出す世界が色彩を持って目の前に迫って来る感じがした。
教科書にも採用されてる文豪だけど、いやぁ、今回は数十年ぶりに再読して大満足。
これを機会に、子供の頃に読んだ本を再読してみようかと思ってる。
いつものバイト君の下書きチェック

最近、涙腺が弱くなってないです?
すぐに泣くしww

うっさいな!
歳をとると涙もろくなるのだ

鬼の目にも涙ww

ちゃうわ!
歳を重ねていろいろ経験をしてるからこそ、感じるものが有るのだ

・・・・・・
まぁ、数十年も隔てての再読なら同じ小説でも印象や読後感が変わって当然。
いろいろ経験を積んだからこそ味わえる世界観もある。
子供の頃のピュアな気持ちで読むのも良いけど、酸いも甘いも嚙み分けた歳になって読むのも新たな発見があって面白い。







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