話題になってた本なのでいつか読もうとは思っていたんだけど、やっと読んだ。
オレはへそ曲がりなので周りの人間が良い本を薦めてくれても滅多な事ではすぐに飛びつかない。薦めてくる人間が多ければ多いほど後回しになるww
この本、ネットを見れば絶賛してる記事が多いし、友達やら仕事場のバイト連中も大絶賛・・・。
それだけ褒められてる本だから素直に読めば良いものを、天邪鬼な性格だからな余計に反発するだけ。
とは言っても、あれだけ絶賛されてる本、やっぱり気になるww
読んでみたいくせに反発して読まないのは天邪鬼な性格の真骨頂だけど、とうとう読んでみた。
って事で、今回は話題になってたあの本の感想を簡単に書いてみようか。
本屋をブラブラ散策してた時だけど、別にこの本を買う目的で本屋へ行ったんじゃない。何か面白そうな本は無いかと書棚を見て歩いてただけ。
話題にはなってないけど面白い本を見つけるのも本屋散策の楽しみ。
そこで目に止まったのが、これ・・・。
紙の動物園!
周りが大絶賛して、しつこいぐらいオレに薦めてた本。
う~ん、こういう時に目に止まるとは何かの導きかもしれない(大袈裟ww)
急いで読む積読もないし、ここは騙されたつもりで読んでみる事にした。
ホントに絶賛されるだけの内容なのか、自分でたしかめてやろうじゃないか。もしもつまらない本だったら苦情の一つでも言ってやろう・・・。
そんな気分で読み始めた。
買ってから知ったんだけどこの『紙の動物園』、7篇を収録した短編集。
中国系アメリカ人作家ケン・リュウの短編が収められてる。
各短編の感想の前に一冊を読み終えての感想を書くと・・・
凄い!
もっと早く読めば良かった!
超大満足!
オレも絶賛したくなる一冊だったww
何が凄いって、短編なのにいろいろなものが凝縮されてる。親子の愛、男女の愛、テクノロジーへの疑問、文明への懐疑、社会風刺・・・一つ一つの短編の密度が濃い。そこへもってきて中国の歴史が物語に織り込まれてるから物語が骨太になってる。
一言で語りつくせない密度の濃さ。
文庫本の背表紙の紹介文にはこう書かれてる。
香港で母さんと出会った父さんは母さんをアメリカに連れ帰った。泣き虫だったぼくに母さんが包装紙で作ってくれた折り紙の虎や水牛は、みな命を吹きこまれて生き生きと動き出した。魔法のような母さんの折り紙だけがずっとぼくの友達だった・・・。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝いた表題作など、第一短篇集である単行本版『紙の動物園』から7篇を収録した胸を打ち心を揺さぶる短篇集。
うん、たしかに心を揺さぶられるし、胸を打たれた。
文庫本の背表紙の紹介文って美辞麗句を並べ立ててほとんど誇大宣伝化してるものも多いけど、この本の紹介文は合格。
各短編についてネタバレしないように軽く感想を書いてみようか・・・。
『紙の動物園』
一番最初に収録されてるのが表題作の『紙の動物園』。文庫本のページ数にしてわずか30ページに満たない短編。
この30ページ未満の短編に凝縮されてるのは母の愛。中国の歴史をバックボーンにして人種的偏見、子供の残酷さを織り交ぜながら物語は進む。
ラストの母親の書いた手紙、これは堪らんな・・・
オレは泣いたぞ!(涙)
人種とか国籍とか、そんなものを易々と超えたところに在るのが母親の愛情だろ。
この短編を読むだけでもこの本を買って良かったと思わせる極上の一品。
『月へ』
アメリカに住む父娘と弁護士の物語。
槐の木を登って月へ行った男、そこで見聞きする事、出会った猿・・・それと並行して進むのが現実世界のアメリカでの生活。途中までは何が何だか分からない展開。
この父娘って何者なんだ?
月の世界の話は何なんだ?
いろいろな疑問を抱きながら読み進めるうちに、水が土に沁み込むように物語が体内に入って来た。こちらも中国をバックボーンにした物語だけど、ここで出てくる「月」は父娘にとってのアメリカなのかもしれないな(ややネタバレww)
『結縄』
この本を読むまで知らなかったけど大昔の人は紐や縄を結んで文字にしていたそうだ。そういうものを結縄(けつじょう)文字と言うそうだけど、日本を含めて世界中に存在してた。
これは中国の奥深い山村の物語。
文明の発達は人類を幸せにしたのか、そもそも幸せとは何だ、そんな事を考えてしまった(泣)
まぁ、オレが考えてみたところで答えなんか出ないんだけど・・・。
『太平洋横断海底トンネル小史』
架空の歴史をベースにして一人の男の生き様を描いた秀作。架空の歴史というとフィリップ・K・ディックの『高い城の男』が有名で、第二次世界大戦で日本が勝利してアメリカが東西に分断されている世界を描いているけど、こちらの歴史は日本とアメリカは戦わなかったという歴史。
世界恐慌を克服するために大規模な太平洋横断トンネル工事で景気を刺激、そこで現場監督をやっていた男の回想という形で物語は進む。当時の欧米列強、中国、日本の状況を事実に基づきながら齟齬がないように架空の歴史を創り出してる手腕はお見事。
一見するとただのSFだけど、そこに流れてる通奏低音は人種とか国籍、出自への悲哀。
けっこう深い読み物だった。
『心智五行』
中国的な匂いがする短編。この世にあるものは木・火・土・金・水の5元素で成り立ってるという古代中国の五行思想がバックボーン。とは言っても舞台は銀河系のはずれの小惑星ww
未来では衛生管理が徹底されて、人が本来持っている体内バクテリアも駆逐されてる世界。辺境の小惑星に降り立った女性宇宙飛行士の体内に初めてバクテリアが発生し、これまで抱いた事のない感情を覚える。人間なら普通に抱くだろう感情を初めて意識するわけだけど、この感情ってのは・・・。『ロビンソンクルーソー』的な物語かと思ったら意外な着地点だった。
『愛のアルゴリズム』
最近は毎日のようにAIについて書かれた新聞やニュースを目にするけど、これはAIについて疑問を投げかける物語。
女性科学者が高度なプログラミング技術を用いて人と会話する人形を開発。しかし、完璧なまでにアルゴリズムを理解している科学者は次に人形が何を話すか事前に解ってしまう。それだけなら在り来たりのSFだけど、哲学者ジョン・サールの「中国語の部屋」という実験の例を挙げて問いかける。組み込まれたプログラムで中国語の対話ができるようになったAIは意識を持ったと言えるのか?
結果、AIは幻想である、と言ってる。ラスト、人形のみならず配偶者の言葉も察知できるようになった科学者は・・・。
これはけっこう怖い話だった(泣)
『文字占い師』
中国と台湾の歴史、成り立ちを背景に一人のアメリカ人少女を軸にした物語。物語というか悲劇だな。
本省人や外省人、中国国民党政府、共産党、台湾二・二八事件等の事は知識としては知っていたけど、この短篇は教科書で覚えた知識が映像となって目の前に迫ってくる迫力。台湾二・二八事件ってのはいわゆる内戦なんだけど(詳しくはこちらに書かれてる)、当時の台湾情勢、米中の関係に翻弄される一市民の物語。
アメリカ人少女がふとした事で覚えた言葉thalassocracy(制海権)、この言葉がとんでもない悲劇を引き起こしてしまう。作中、一市民が拷問されるシーンがあるんだけど、これがエグいんだよな(泣)
おもわずナナメ読みで飛ばして読んでしまいそうになるぐらいキツい。
何だかんだでアメリカ人少女はアメリカに帰国する事になるんだけど、この物語の重苦しさは尋常じゃない。
オレは、また・・・
泣いた!(涙)
この短編集、読む前はSFかと思ってたけど、ゴリゴリのハードSFじゃないな。どちらかというとファンタジー色の強い作品が多い。もともとファンタジーは余り読まないオレが、これだけ胸を打たれるんだから相当な腕前。
作者のケン・リュウは1976年に中国で生まれた後11歳で家族と共にアメリカに移住。弁護士でもありプログラマーとしての顔も持つなど多才な人物らしい。たしかに『愛のアルゴリズム』ではプログラマーらしい着眼点だし、『月へ』では弁護士らしくアメリカの法律を解りやすく書いてる。
訳者のあとがきによると文化的背景からケン・リュウは中国でも人気のある作家だけど、様々な事情(多分、政治的なもの)で中国語に翻訳されてない作品もあるそうだ(『月へ』や『文字占い師』)。
まぁ、そういう作品を含めて読めたのは大きな幸せ。
短篇集でこれだけ満足度の高いものは久しぶりに読んだ気がする。こんな事ならもっと早く読んでおけば良かったな。
今度から人の言葉には素直に従う事にしようww
いつものバイト君の下書きチェック

言った通りだったでしょww

うむ・・・
これは文句のつけようがないわ^^

素直じゃないから乗り遅れるんですよww

うっさいな!
感動してるんだから良いだろ

都合が悪くなるとすぐに怒るww

・・・・・・

良い本を教えてあげたんだから感謝して欲しいぐらいです^^

・・・・・・
そりゃ、いつも良い本を紹介してくれるなら感謝もするけど以前は『ハリー・ポッター』とか『ゲームの達人』なんてのを薦めてきたからな。
あんなものは読む気になれん(偏見ww)
まっ、今回の『紙の動物園』はオレの中では文句なしの☆5個。
同じ作者の小説、もっと読みたくなったぞ。
そうそう、台湾二・二八事件を扱った映画『悲情城市』を観てみたくなった。ベネチア国際映画祭でグランプリを獲ってるし、探せばどこかに有りそう・・・。
ケン・リュウのおかげで観たい映画が一つ増えた(事件の勉強をしたいだけだがww)









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