ここ数年、アカデミー賞はいろいろ批判され続けてきた。
どんな批判かと言うと、黒人は主な賞(主演男優賞等)を獲れない、金のかかった大作、宣伝費の多い映画ばかりが作品賞を獲ってる等々・・・要はアカデミー賞の多様性を問う問題が広く世間で騒がれてた。
そんな声を意識してか、近頃は肌の色に関係なく主演賞を受賞してるし、作品賞だってアメリカ映画以外から受賞したり、いろいろ変化の兆しも見せてるけどな。
たとえば今年(2020年)のアカデミー作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』だって、近年増え続けてるアカデミー賞批判がなかったら受賞してたかどうか怪しいもんだと思う。そのあたりの事は、以前にも記事に書いてるけど・・・。
【映画】これがアカデミー作品賞!?『パラサイト 半地下の家族』を観ての率直な感想を書いてみる・・・って話
この映画の事は記事の中でもボロカスに書いたけど、今回はもっとマシな映画の話。
って事で、映画『ムーンライト』の話を書いてみようか。
この映画を初めて観たのは2017年の封切り直後。
映画館で観たんだけど、まず驚いたのが・・・
黒人しか出てこない!
後半、レストランのシーンで白人の客が座ってるシーンは有るけど、ただスクリーンに映ってるだけで、ほとんど背景の一部。
この映画に出てくるのは黒人ばかりだ。これはオレには驚きだった。黒人しか出てこない映画がアカデミー作品賞を受賞するんだから、ちょっと前までは考えられなかっただろ。
なるほどアカデミー作品賞を獲るだけあって、なかなかの余韻を残す映画だし、いろいろ考えさせられる映画だけど、この映画がAmazonプライム・ビデオで配信されてた。
映画館で気が付かなかった事もあるかもしれないし、先日、久しぶりに『ムーンライト』を観たぞ。
この映画、どういう映画なのかを簡単にwikiから引用しておくと・・・
第74回ゴールデングローブ賞では映画部門 作品賞 (ドラマ部門)を獲得したほか、5部門にノミネートされた。同年の第89回アカデミー賞では8部門でノミネートを受け、作品賞、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)、脚色賞を受賞している。
って具合に高い評価を受けてる映画だ。
これだけじゃ映画の中身までは解らないんで、軽く中身についても触れておこうか。
この映画が描いてるのは、一人の黒人の物語だ。少年時代、青年時代(高校生)、大人になってからの時代の三章で構成されてる映画(もちろん主人公を演じてる俳優は別々)。
少年期を描いた「リトル」、青年期の「シャロン」、大人になってからの「ブラック」の三章だけど、それぞれに物語が構築されていて飽きさせない。
でね、この映画の中核とも言えるのが・・・
同性愛!
今でこそLGBTだの何だのって認知されてるけど、まだまだ一般には受け入れられていない同性愛について問いかけてる。
その問いかけ方も安っぽいデキ損ないの映画のような「大上段に構えて」問いかけるんじゃなくて、ジワリと側面から、やんわりと問いかけるような映画。オレはこういう映画は好きなんだよなぁ。
いかにも大問題のように大袈裟にメッセージを振りかざされるよりも、何もメッセージは無さそうな雰囲気なのに実はやんわりと問いかけてるって映画の方が気持ち良い。
黒人しか出てこないってだけでもけっこう実験的なのに、隠れた主題に同性愛を置いてるんだから、一筋縄じゃいかない映画だろ。
と言うか、この映画、同性愛云々をどうこう言ってるんじゃない。
男女の恋愛だろうと、男同士の恋愛だろうと、要は「人が人に好意を寄せる」って事だろ。
この映画が描いてるのは同性愛をも含めた人間愛だ。
三章構成のこの映画、もう少し詳しくみていこう。
まずは少年期を描いた「リトル」。
恥ずかしがり屋で内気な黒人少年シャロンは周りからは「リトル」と呼ばれていつもいじめられてる。
ある日、いじめっ子から逃げているところを麻薬の売人フアンと出会う。何も話さないシャロンをフアンは家に連れて行くんだけど、ここからシャロンとフアンの交流がスタートだ。フアンの恋人テレサも交えて夕食を食べ、徐々に心を開いていくシャロン。
このフアンが、また良いんだよなぁ、むっちゃ良い味を出してるわけ。
海でシャロンに泳ぎを教えたり、いろんな事を話してきかせたり・・・。
いいか?
自分の事は自分で決めるんだ。
絶対に他人に決めさせるな。
こんな台詞を話して聞かせるシーンがあるんだけど、ここはオレの中でも名場面。
母子家庭のシャロンだけど、まぁ、母親ってのがロクでもない人間で薬物中毒・・・。
そうこうするうち、この「リトル」の章を締めくくる事件が発生して・・・って流れなんだけど、ネタバレになるから書かないww
いつも言ってるけど、オレのブログは極力ネタバレしない方向で書くのがモットーだからな。
ただ、「リトル」のラストシーン、うなだれるフアン・・・何度観てもやるせない気持ちになる(泣)
さっ、時は流れて二章の「シャロン」。
高校生になったシャロンは相変わらず学校ではいじめられてる。母親も変わらず薬物中毒のままだ。痩せてヒョロヒョロした体をからかわれ、母親の事でからかわれ、まぁ、観ていて胸が痛い。
そんなシャロンにも一人の友達が居るんだけど、それがケヴィンだ。
この章でシャロンの同性愛的な嗜好が少しずつ明らかにされるんだけど、ある夜、シャロンは夢を見るわけ。どんな夢かというと、ケヴィンが外で女性とセックスしてる夢ww
ハッキリとは描かれてないけど、ここでシャロンは・・・
夢精してる!ww
ほら、少しだけ同性愛の匂いがしてきたでしょ。
普通は同性の夢を見て夢精なんかしないだろうし・・・。
そんなある日の夜、浜辺にシャロンとケヴィンが座ってるシーンだ。麻薬を吸ってるケヴィンはシャロンにも吸うように勧める。将来の事なんかを話してる二人だけど、ふと目があった瞬間・・・
キスするぞ!
もちろん奥手のシャロンからキスする訳もなく、ケヴィンの方からキスするんだけど、凄いのはここからだ。
なんと、ケヴィンはシャロンのズボンを下して・・・
手淫!ww
あっけなく果てるシャロン。
まぁ、麻薬でラリッてたケヴィンがやった事なんだけど、この経験はラストの言葉への「大きな伏線」になる。
ケヴィンとの仲が深まるのかと思いきや、またしても思わぬ出来事で二章の「シャロン」は幕を閉じる。どんな出来事かは書かないけど、最後、パトかーに乗せられる前のシャロンの目はケヴィンに何を訴えていたんだろうか(涙)
さぁ、いよいよ映画も大詰め「ブラック」の章だ。
シャロンの事を周りが「リトル」と呼んでた時もケヴィンだけは「ブラック」と呼んでたんだけどね。
大人になったシャロンは凄いぞ。
何が凄いって、高校生までのヒョロヒョロの坊やとは違って、筋骨隆々、まぎれもないマッチョに変身。日々、肉体の鍛錬をしてるんだけど、そんなシャロンの仕事はというと・・・
麻薬の売人!
子供の頃に仲良くしてもらったフアンと同じ仕事をしてるわけ。地域の仲間からは一目置かれる存在になってるんだけどね。
この辺りにこの映画の「皮肉さ」と言うか「批判精神」みたいなものを感じる。どんな人間だって親や環境のせいで、普通に暮らせなくなる・・・。
そんなシャロンの元へは施設に入ってる母親から頻繁に電話がかかる。会いに来て欲しいって電話だけど、この二人の会ってるシーンも切ない。
何もかも諦めているような表情のシャロン・・・。
ある日、ケヴィンから電話がかかってるぞ。
テレサに訊いて電話してきたわけだけど、高校の時の出来事の謝罪をしたいから、こっちに来る事があれば働いてるレストランに来てくれ、何かご馳走する、って電話だ。
車に乗って会いに行くシャロン。レストランでの再開・・・。
高校の時に「手淫」とかいろいろ有った二人、どんな会話をするのか息が止まりそうな緊迫感だ(オレだけかもしれないけどww)
ケヴィンを家まで送ったシャロンにケヴィンは言うんだけどね。
昔、思い描いた未来とは違うけど、俺の人生は幸せだ
さて、シャロンは何を語るか・・・。
これはブログじゃ書けない。これを書いたら、それこそ大いなるネタバレになるから。
だけど、シャロンの言葉はズシンと来たなぁ。
なかなかの衝撃なのは間違いない。
この言葉を聞いた時、オレみたいな捻くれた人間でも思ったからな・・・
うわ~っ!
ステキやんか!
って・・・。
最後の最後、シャロンの幸せそうな表情はこの映画のラストを飾るのにふさわしい演出だ。
まぁ、黒人の筋肉マッチョが男の肩に頬を埋めてるって絵ずらは好き嫌いあるかもだけどww
ってのが、映画『ムーンライト』なんだけど、しっかりと余韻を残す映画だな。
大袈裟にLGBTだとかゲイだとか黒人だとかを前面に押し出すんじゃなくて、ふんわりと問いかけて来る。
そもそも、この映画が描いてるのはLGBTとかゲイとか黒人とか麻薬とか環境とか、そういう表面的なものじゃないだろ。もちろん演出の手法としてゲイ、黒人、ロクでもない母親、治安の悪い街を使ってはいるけど、この映画の核は・・・
人が人を愛するという事!
だと思ってる。
だから「シャロン」の章では、「あの出来事」の時シャロンは何度も立ちあがったし、映画のラストの言葉に繋がるんだろ。
何か大きな事件が起きるわけでもない、ハラハラドキドキするわけでもない、ただ淡々とシャロンの人生を切り取って描いてる。
派手な映画が好きな人はこういう映画は嫌いかもしれないけど、派手なだけで何も訴えない、何も余韻も残さない映画よりははるかに良いと思ってる。
久しぶりに『ムーンライト』を観たけど、やっぱり良い映画だったな。
いつものバイト君の下書きチェック

この前の『パラサイト』と違って高評価ww

当たり前だ!
この映画ならアカデミー賞に値するわ

黒人しか出てなくて、ゲイ要素のある映画が作品賞ですか・・・
時代の流れですかね

だと思うぞ
アカデミー賞が批判されてなかったら、この映画も作品賞までは獲ってないだろうな

今年はアメリカ映画以外で初の作品賞だったし・・・

『パラサイト』はオマケみたいなもんだ!

・・・・・・

あの映画の話はするな!
胸クソが悪くなる・・・

そう言いながらブログに書いてるくせにww

・・・・・・
まぁ、アカデミー賞と言えども興行的な側面は無視できないだろうし、オレなんかには解らない力学が働いて受賞作が決まるんだろうけど、仮にも作品賞を与えるなら少なくとも格調の高い映画にして欲しい。
そりゃ、オレだっていろんな映画を観るし、それこそアホみたいな映画で大笑いする事もあるけど、作品賞ともなれば別だ。
昔と違って、アカデミー賞受賞作と言われても「良い映画」と頭から信じられない時代だと思ってる。










コメント
お久しぶりです、ねじまきです。
マサトさんがムーンライト見てないの意外です!
マハーシャアリ、確かムスリム系発のアカデミー受賞だっんですよね。
『グリーンブック』もぜひ。(もう観られてたらすみません。)
>ねじまき
ちわわ。封切りの時に一度観ただけで、細かな部分を忘れてたけど、プライム・ビデオで配信されてたので久々に観てみました;;
ちょうど『パラサイト 半地下の家族』でムカムカしてたんで、お口直しの意味でww
『グリーンブック』、映画館で見逃したんだよなぁ…。連休の間に観てみます!
ねじまきさん推薦なら期待できそう。