今さらの『満願』だ。
本好き、読書好きの人の間では話題になった本だし、読んでる人も多いだろうけど、オレはこの本を読んでなかった。
何が話題になったかと言うと、この本・・・ミステリー界の主だった賞の3冠を獲得したから。
「このミステリーがすごい!(2015年 国内編)」、「週刊文春 2014ミステリーベスト10(国内部門)」、「ミステリが読みたい!2015年版(国内篇)」の全てで1位を獲得してる。
それに加えて第27回山本周五郎賞まで受賞してるんだから、そりゃ、本好きの間では話題になるのは当然。
本の帯にもデカデカと宣伝文句が並んでる・・・。
これだけの話題作、どうしてすぐに読まなかったかと言うと、作者の米澤穂信・・・
オレの中では重要度が高くなかったから!ww
もちろん人気作家だし、これまでに何冊かは読んでるけど、どうもオレの好みじゃない小説ばかりに当たってしまったようで、評価もそんなに高いものじゃなかったのだ。
『ボトルネック』や『インシテミル』の感想をブクログに記録してるけど、今、確認してみてもそれほどの高評価を付けてないww
そんなわけで、オレの中では米澤穂信は「一定の水準は超えてるけど、慌てて読まなくても良い作家」のグループに分類してた。
これまでにも出版社の宣伝に乗せられて、何度も駄作をつかまされた事が有るし、そう簡単には出版社の宣伝には乗らないように自戒してる。
で、そんなオレがどうして今回は米澤穂信の『満願』を手に取ったかというと・・・
108円だったから!ww
暇潰しで入ったBOOKOFFでたまたま見つけたんだけど、値札を見ると108円だった。
うん、108円なら仮にこの本が駄作でも許せるww
そんなわけで108円でハードカバーを買ってきて読んでみた。
って事で、今回は米澤穂信の『満願』についてオレの感想を書いてみようか。
あくまでも感想だぞ!
書評なんてたいしたものじゃないww
なにしろ「一定の水準は超えてるけど、慌てて読まなくても良い作家」のグループに入ってたので、この本が話題になった事は知ってはいても、内容までは詳しく知らなかった。さすがに推理小説らしいって事はわかるけど、すぐに読むつもりもなかったし、詳しく内容までは調べてもなかった。
で、さっそく読んでみたんだけど、これって短編集だったんだなww
てっきり長編かと思ってたんだけど、この本は6編からなる短編集だ。
で、オレの感想なんだけど・・・
米澤穂信、やるな!
いやぁ、この本・・・
面白い!
短編なので読みやすいってのもあるんだろうけど、どれもよく構成を練られているし、ミステリーとしても「謎解き」の部分をひと捻りしてあって「ほぉぉぉ」と唸らされた。
この一冊、もちろん・・・
一気読みした!ww
「謎解き」と言っても、「殺人事件が起きました。さぁ、犯人は誰でしょう?」っていうような直球のミステリーじゃない。
この本はそんな所に重点を置いてないのだ。
以下、6編の収録作品について簡単に感想を書いてみるけど、いつも通り極力ネタバレしない方向で書いてみよう。
直球のミステリーじゃない、ってどんなものかと言うと、本の帯にこういう紹介文が書かれてた。
その犯行には、
人生よりも深い謎がある
これが肝だな。
単なる「犯人当て」よりも実に面白い。
密室殺人だのアリバイ崩しだの、そういうパズルを解くようなミステリーも面白いけど、そういうものって往々にして「現実離れ」してるものが多い。犯人を捜す事に軸足を置いて、動機やら背景の面が疎かにされてる。
それに対してこの『満願』、実際にありそうな話なので面白さ倍増だ。こちらは「犯人が誰か」よりも「動機」に軸足を置いてる。
帯からちょっと引用してみると、
人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは━。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、美しき中学生姉妹、フリーライターなどが遭遇する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジックで魅せる、ミステリ短編集の新たな傑作誕生!
って書かれてる。
うん、丸っきりのウソは書かれてない(本によっては、ウソばかり並べ立ててるモノも多いけどww)。
さっそく各編についてオレの勝手な感想を書いていこうか。
『夜警』
ある交番に配属されてきた新人警察官。彼を観察する上司(交番長)の目線で描かれてる。配属されてきた新人警察官を見て、警官には向いてないんじゃないか?と疑いを持ちながらも交番勤務のイロハを教えていく日々。
そんなある日、夫婦喧嘩の通報で現場へ駆けつけたわけだけど、刃物を持って暴れる夫を新人警官が射殺してしまう。
どうして簡単に拳銃を抜いて発砲したのか・・・
誰も語らない謎を一人推理する交番長。
いやぁ、のっけから唸らされたな。
ちょっと頼りないけど訓練によってはものになりそうな新人、冷徹な目で観察する上司、警察内部での拳銃の取り扱い等々、心理面や交番勤務の決まり事など、いろいろ丁寧に描かれている。
「謎解き」も水準以上のもので満足。
やっぱり交番のお巡りさんは頼りになる警官が良いなww
『死人宿』
2年前に別れた恋人を尋ねて山奥の旅館にやって来た男。
無事に元恋人に会えたもののその旅館は「自殺の名所」。これまでにも何人も自殺してるという曰くつきの旅館。
その旅館で働いてる元恋人が「露天風呂に堕ちていた遺書」を男のもとへ持ってくるんだけど、はたしてこの遺書を書いたのは誰なのか?
泊り客は主人公を除いて他に3人・・・。
自殺を思いとどまらせるべく遺書を書いた人間を探すんだけど・・・。
これは一種の叙述トリックに属する小説かな。
かなり注意深く読んでないと結末は予想できないんじゃないか。遺書を書いた人物を探す「犯人当て」よりも、結末の衝撃の方に重点を置いてる小説。
まさか、このオチだったとは・・・
と思わせる小説だった。
『柘榴』
これは6編の中でも一番の衝撃だったかもしれない。
一人の母親の回想から物語は始まるんだけど、まぁ、なんと言うかこの母親、人間的にはあまり好ましくない人物だ。自分の美貌を武器に、ハンサムなだけが取り柄の男を篭絡して結婚した過去が書かれてる。
で、現代・・・。
今度は中学生の娘の言葉で描かれてるんだけど、家に寄り付かない父親、娘二人を女手一つで育ててる母親。
この母親、子供には普通に愛情があるようで、貧しいながらも母と娘二人、普通に生活してる。
そんなところへ家に寄り付かない夫との離婚調停が始まった・・・。
子供の親権は母と父、どちらに渡るのか。
そりゃ、普通に考えれば家に寄りつかず金も入れない父親に親権が渡る事は無いんだけど、娘たちの「ある行動」によって親権は父親へ・・・。
この「ある行動」がけっこう意表を突くものなんだけど、ここで謎が浮かんでくる。
どうして「そんな事」をしたんだ?
この謎解き、考えもしなかった答えが用意されてた。
う~ん、世の中には「この小説で描かれてるような事」もある事は知ってるけど・・・
まさか、ここで使うか!
って言う驚きだ。
読後、感じるのはこの小説の上手さ。
最初に母親の若い頃を描く事によって、娘との対比が実に鮮やかになってるのだ。
対比というか・・・
血は争えない!
と背筋が寒くなる小説だった。
いや、ホント、これは衝撃作と言っても良いだろ。
『万灯』
バブル期のイケイケドンドンの時代、オレは新人サラリーマンだったけど、その頃の日本の商社マンを描いた小説。
この中で描かれてる時代を新人サラリーマンとして働いていたので、あの時代の空気感はよくわかるんだけど・・・
会社のためなら少々の事は許される!
みたいな空気感だ。
ガス田開発のために発展途上国に駐在してる商社マンが主人公。
開発のためにはある村の土地を借り上げないといけないわけだけど、村には開発に反対する有力者が・・・。その有力者さえ居なくなれば開発が軌道に乗る事は確実。
まぁ、そんなこんなで殺してしまうわけだ。
この辺り、主人公のモーレツ社員ぶりは妙に懐かしささえ感じさせるものだ(もちろん殺人はNGだけど)。
この話はこの殺人だけで終わらない。
口封じのためにライバル会社の社員を追って帰国した主人公、見事に口封じに成功したんだけど・・・
思わぬ天罰が下される!
発展途上国から日本へと舞台を移しながら予想外のラストに息をのむ。
二人も殺す主人公だけど、彼のモーレツ社員ぶりに共感を覚えた事も事実。
会社のためなら少々の事は許される!
もう、あんな時代は来ないんだろうな・・・。
『関守』
これも上手いんだよなぁ。
都市伝説の記事を書くために交通事故で死者が何人も出てる現場へ向かうフリーライター。先輩には「止めた方が良い」と言われながらも、器用貧乏な彼は取材のために現地へ・・・。
あたりには店一軒どころか何もない山道、途中にあった一軒のドライブインに立ち寄るんだけど、そこにはこれまでの交通事故を知る老婆が一人で留守番していた。
もうね、ホントに都市伝説っぽい筆致で書かれていて、読んでいて気味が悪くなるほどww
これまでの交通事故で亡くなった人について、詳しく話す老婆。
良い取材が出来た、これで記事が書けると喜ぶフリーライター・・・。
この辺りで読者の興味は、
これまでの交通事故の死者に何か共通点はあるのか?
人為的なものとしたら、動機は?
って事になるんだけど、読んでいてもまったく判らない。
ただ、インタビューしてるフリーライターと事故のあらましを話す老婆の会話。
で、結末なんだけど、
上手い!
何もかも解明されるんだけど、それプラス・・・
驚愕の〇〇〇!
この「〇〇〇」ってのがこの小説の最高・最大の見せ場。
伏せ字の中を明らかにするとネタバレになりそうなんで書かないけど、まさに都市伝説を扱うにふさわしい結末だ。
さわらぬ神に祟りなし!
って言葉を思い出したぞww
『満願』
最後は表題作の『満願』。
弁護士になるべく苦学して大学に通う主人公。彼が下宿してる畳屋のおかみさんが妙子・・・。
弁護士になった彼が思い出す形で学生時代の事が書かれていて、才色兼備な妙子とロクでもない夫、その夫婦の二階屋で下宿してる当時の様子だ。
誰が見ても妙子は「よく出来た嫁」・・・。
時は流れて物語は現代、
妙子は金貸しを殺した罪で刑務所で服役中。
一審の判決を不服として控訴したのに、夫が亡くなり金貸しへの借金も保険金で返済した今、妙子の強い希望で控訴を取り下げてしまった。
その妙子が出所するのが今日。
これから事務所に向かうという妙子からの電話を切り、古い事件の記録を読みなおす主人公・・・。
どうして控訴を取り下げた?
金貸しを殺した本当の目的は何だ?
その辺が気になるんだけど、この妙子に対してオレが読後に感じたのは、
強い女!
矜持を持ち続ける女の強さだ。
ラストの衝撃という意味では他の5編に及ばないけど、他の5編には無い「人間の強さ」を描いた小説。
これはミステリーという一つの枠に押し込めるんじゃなくて、「人間を描いた作品」として読みたい。
てか、「人間を描いた作品」と言って良いだろ。
作中、妙子がこんな言葉を主人公に言ってる・・・
この世はままならぬものです。泥の中でもがくような苦しい日々に遭うこともあります。ですが藤井さん、矜持を見失ってはいけません。誇りさえしっかりと胸に抱いていれば、どんな不幸にも耐えられないということはありません。
矜持を持ち続ける女、妙子が犯した殺人。
この殺人の動機は何なのか・・・。
そんな動機よりも、この妙子の生き様に感銘を受ける。
って事で、収録されてる6編について、軽く感想を書いたけど、どれもよく出来てる。
米澤穂信って、これまでは「一定の水準は超えてるけど、慌てて読まなくても良い作家」の一人だったけど、考えを改めたぞ。
これからは「積極的に追いかける作家」だ。
それにしてもこの『満願』、108円でこれだけの満足度なら文句ない。
文句どころか感謝したいぐらいだな。
いつものバイト君の下書きチェック

108円で大満足なら良かったじゃないですかww

おう!
今回は水準をはるかに超える内容だった^^

これで米澤さんも「積極的に追いかける作家」ww

まぁ、当たりハズレはあるだろうけどな・・・

今度、ハズレだった本の事をブログに書いたらどうですか?ww

・・・・・・

気に入らない本を読んだ時なんか、鬼みたいな顔してるしww

・・・・・・
なるほどな、気に入らなかった本か・・・。
書いても良さそうだな。
出版社の宣伝文句やマーケティング戦略に乗せられて、クソ駄作をつかまされた事は何度もあるし(それも定価で!)、そういう本のネタには困らないww
まぁ、出版社だって商売で本を出してるわけで、どんな駄作だって上手い宣伝文句を付けて売り出すんだろうけど・・・。
騙される方はたまったもんじゃない!ww
近いうちに「オレが激怒した本」を何冊か紹介してみるのも面白そうだ。





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