その言葉は知識としては頭に入ってたけど・・・。
何がって、「帰国事業」とか「地上の楽園」という言葉だ。
「帰国事業」ってのは、いわゆる在日朝鮮人の帰国事業。1950年代から80年代初頭にかけて行われた在日朝鮮人とその家族の北朝鮮への集団的な永住帰国、移住。
当時の大手マスコミ(朝日新聞等)は北朝鮮を衣食住の心配はない「地上の楽園」と喧伝して、多くの在日朝鮮人を北朝鮮に移住させる事になるんだけど、移住者の中には在日朝鮮人と結婚していた日本人妻も多く含まれていた。
子供の頃の記憶だけど、オレの死んだ爺さん、婆さんが言ってた・・・
あの家族は北朝鮮に行ったけど、生きてるんだろうか
って言葉を思い出した。
子供の頃の事なんでね、何の事を言ってるの意味不明だったけど、さすがにこの歳になると解る。
あの国が「地上の楽園」でも何でもなかったこと、むしろ移住者の多くは差別され辛酸を舐めたことは数多の書籍が明らかにしてるところだ。
で、今回の映画だけど北朝鮮への「帰国事業」をバックボーンに、日本と北朝鮮の二国に引き裂かれた家族を描いた秀作。こんな映画が有った事は知らなかったけど、観ておいて損はない映画。特に歴史に無頓着な日本人ほど観るべき映画だと思ってる。
って事で、映画『かぞくのくに』の感想を書いてみようか。
いつものようにAmazonプライム・ビデオで見つけたんだけど、出演者を確認してみると主演が井浦新。映画『ピンポン』でスマイル役をやってた人だけど、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』では三島の狂気を怪演してて、あまりの変貌ぶりに驚いたものだ。その井浦新が主演なら観ておきたい。
母親役で宮崎美子も出演してるようだし、どんな内容なのか気になる・・・。
さっそく連休の最初の夜に観てみた。
これね、休みの前に観るような映画じゃないな。
どうしてかって、せっかくの休日前なのにこの映画を観たおかげで気分はドンヨリ、何て言うか気が滅入ってしまったww
どんな映画かを一言で書くと、
クソ重い映画!ww
じゃぁ、重い映画だから良くないのかと言うと、その逆・・・。
いろいろ胸に迫るものがある映画だ。
基本的にハッピーエンドが好きなオレだけど、バッドエンドでもこの映画の評価は高いぞ。
クソ重い映画って書いたけど、どんなストーリーなのかをwikiさんから軽く引用してみよう。
在日コリアンのソンホは総連の重役を務める父の勧めに従い、当時「理想郷」と称えられていた北朝鮮の「帰国事業」に参加し半島に渡り、現地で結婚し子供も生まれたが、離れ離れとなった家族の再会は果たされていなかった。
それから25年、ソンホの一時帰国が実現する。ソンホは脳に悪性の腫瘍を患い、その治療のため、3ヶ月の期間限定で日本滞在が許されたのだ。久々の再会に妹のリエや母ら、家族は歓喜し、ソンホを温かく迎え入れる。だがソンホには常に同志ヤンが付き従い、その行動を制限・監視していた。
15歳の時に北朝鮮に渡ったソンホ(井浦新)が帰国するところから映画はスタート。41歳になったソンホを暖かく迎える家族なんだけど、この家族はもちろん在日朝鮮人。
父親は家の中に「北の将軍様」の写真を飾ってるような北のシンパだ。
ソンホの帰りを素直に喜ぶ母と妹、複雑な表情を見せる父親・・・この辺り、帰国した夜の食事のシーンが上手く描いてる。完全に北を信じてる父、日本に住んで「ほとんど日本人」として生活してる母と妹。これだけでも映画としての素材にワクワクさせられる。
同級生との再会、妹とふたり買い物に行くシーン、どれを取っても胸に迫るものがあったな。
検査の結果、ソンホの治療は3ヶ月では足らず半年以上の入院が必要だと告げられ、手術を断られてしまう。なんとかソンホの腫瘍を治療させようとリエがソンホの幼馴染で医者に嫁いだスニに相談していた矢先、朝鮮本国より突然の帰国命令が下る。
ソンホの叔父が父親に詰め寄るシーンが有るんだけどね。
叔父は父親にこんな事を言う・・・。
俺はソンホを一人であの国には行かせたくなかったんだ。
港でソンホに訊いたんだ。
どうして一人でも行くって言ったんだ?って。
父親は無言・・・。
ソンホは何て言ったと思う!?
僕が行かなかったら、協会でのお父さんの立場が悪くなるからって言ったんだぞ!
お前ら家族のためにソンホは一人で北へ渡ったんだ!
父親は無言のまま・・・。
このシーンには鳥肌が立った。
「地上の楽園」だなんて言って喜び勇んで北へ渡った人ばかりだと思ってたけど、あの「帰国事業」の暗部を垣間見たようで寒気がした。
急な帰国命令で、明日には監視役に連れられて帰国するという時、ソンホが妹に語って聞かせるシーンも強烈。
あの国では何も考えたらいけないんだ。
考えずに、ただ従うだけだ。
涙ぐむ妹だけど、ソンホは優しく言うんだよね。
でも、お前は納得するまで考えろ。
納得するまで考えて行動しろ。
もうね、ソンホの表情がたまらん(涙)
映画『ピンポン』のスマイル役を演ってた子が、こんな表情を出せるようになるとか・・・
井浦新、すごい!
妹と二人で買い物に行くシーンだけど、二人でスーツケースを見るんだよね。
ここはいろいろ象徴的な場面だ。
自由に行動できない、自由に生きることも出来ないソンホ、何を思うんだろうか・・・。ここは観てる人によって受け止め方は様々だろうけど、あのソンホの表情、オレには「何もかも諦めてる」ようにしか見えない(泣)
象徴的と言えばラストもそうだ。
帰国当日、車に乗せられて空港へ向かうソンホ。
走る車の中、後部座席で窓を開けて日本の歌「白いブランコ」を小さな声で唄ってるんだけど、しばらくすると窓を閉められてしまう。
これから「閉ざされた国」へと戻る事、これからは自由じゃない事を暗示してるようで怖い。
この『かぞくのくに』という映画、ハッピーエンドどころか、胸に重しを乗せられたような陰鬱な気分になるけど、昔の日本では在日朝鮮人の「帰国事業」というものが有った事、あの国を「地上の楽園」として喧伝してたマスコミが有った事、それに振り回された家族がある事を思い出す秀作。
いつものバイト君の下書きチェック

地上の楽園・・・

お前なんか知らんだろうな

中島みゆきの「地上の星」ならわかりますけど^^

・・・・・・
この映画、母親を演じてる宮崎美子も良い味を出してる。
急な帰国が決まった後、小銭を貯めていた豚の貯金箱を開けて急いで買い物に行くんだけど、買ってきたのはスーツ。
北朝鮮に戻る時ぐらいはスーツぐらい着せたい、って母親の愛情だな。
しかも監視役のヤンのスーツまで・・・。
ヤンに宛てた手紙も泣ける。
民族は違っても母親の愛情は同じ!
まっ、この映画を気に入ったからと言って、オレがあの国、あの国を信奉してる人間を好きになる事は無いけどな。







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