ディストピアが舞台でも伊坂節は健在!『火星に住むつもりかい?』

誰かがオレに質問したとする。
好きな作家を10人挙げてみろ・・・
うん、間違いなく入る。
5人だけ挙げてみろ・・・
って言われても入るだろうな。
それが伊坂幸太郎だ。

どこかの記事で書いたけど、彼の世界観と文体が好きなのだ。
なんと言っても、

お洒落!

彼のような世界観や文体は、なかなか居ないと思ってる。強いて挙げれば、比喩を多用するところなんかは村上春樹に似てるような・・・。村上春樹もどっちかと言うとお洒落な世界観・文体だろ。
伊坂幸太郎を読んだ事の無い人には、「読みやすい村上春樹」って説明をして、オススメの本を紹介したりしてる。

で、そのまま伊坂幸太郎のファンになる人も多いんだけど、彼の小説の良いところは、世界とか人生とか、俗にいう哲学的になりがちなテーマを「わかりやすい言葉」で平易に書いてるところ。
これは凄く大事なことだと思ってるんだけど、作中にさりげなく「物事の本質を突く言葉」が入ってるんだよな。しかも、誰でもわかるような平易な言葉で。
これね、某ノーベル賞作家みたいに、「簡単な事なのに、難しい言葉をこねくり回して」表現してる小説とは大違い。
そんなわけで、伊坂幸太郎の事は追っかけていた時期が有った。

で、この前だけど、フラリと本屋に入ってみると、こんな本が平積みされてた。

伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』だ。
ここ最近は彼の本を読んでなかったけど、こんな本が出てるなら迷わず即買いだ。
って事で、今回は伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』を読んだ、って話。



この本、文庫で買ってきたけど、まずは帯の文句が目を惹く。
世の中には
いろんな
「正義」ばかり。
新たなる代表作!

【解説】ぼくのりりっくのぼうよみ
「この小説の最後に
提示されるメッセージは
とても優しく、
心地よいものでした」

って書かれてる。
いろんな「正義」ってのも気になるし、解説を書いてるらしい「ぼくのりりっくのぼうよみ」って何者だ?って気にもなる。
後で調べたところによると、1998年生まれの男性シンガソングライター、随筆家らしい。
てか、まだ二十歳そこそこやんか!ww
愛称もあるそうで「ぼくりり」・・・。

まぁ、誰が解説を書こうと、問題は伊坂幸太郎の小説の中身だ。
さっそく読んでみた。
いつものように結論から書くけど、

面白い!

なるほど、これまでの伊坂作品とは少し趣きが違うけど、伊坂節は健在だな。

 

ネタバレは嫌いなんで、どういう話なのかは背表紙から引用して紹介。

「安全地区」に指定された仙台を取り締まる「平和警察」。
その管理下、住人の監視と密告によって「危険人物」と認められた者は、衆人環視の中で刑に処されてしまう。
不条理渦巻く世界で窮地に陥った人々を救うのは、全身黒ずくめの「正義の味方」、ただ一人。
ディストピアに迸るユーモアとアイロニー。
伊坂ワールドの醍醐味が余すところなく詰め込まれたジャンルの枠を超越する傑作!

って話なんだけど、これだけじゃこの小説の面白さを伝えきれてないだろ。
だからと言って、オレが伝えられるわけもないけど(泣)

この小説、五部構成なんだけど、最初の一部、二部は登場人物も多いし、さすがに頭の中で整理しながら読んだ。
何がどう繋がっていくのか、最初のうちは見当もつかないけど、伊坂幸太郎が書いてるんだから・・・

絶対に伏線の回収があるはず!

これ、作者への信頼だなww
読んだ事もない作家の本だったら、うん、途中で投げ出したかもww
で、今回も見事な伏線の回収だった。

第一部、夫婦の会話から始まるんだけど、話題は中世ヨーロッパで行われてた魔女狩りの話。伊坂作品らしく軽妙な語り口なのに、話題が話題だけに不穏な空気も漂ってる。
次から次に新しい人物が出てくるし、頭の中で整理しながら読むのはちょっと大変かもだけど、読者を飽きさせずに惹きつけるのは、登場人物がふと漏らすセリフに魅力が有るからと思ってる。
例えば、こんな会話・・・

「ほら、映画とかでね、主人公が敵を倒すだろ。倒すだけじゃなく、命を奪ってね」
「ありそうですね」
「で、最後、命からがら主人公は生き残って、めでたしめでたし、となるけれど、僕からすれば主人公もね、さんざん人を殺しているんだから、そんなに能天気に終わられても違和感があるんだ」
「でもまあ、殺された敵は悪者だったわけですから」
「敵にしても、ボスはまだしも手下たちは、ただ真面目に働いていただけかもしれない。あちらにはあちらの思想と使命感があるわけだからね」
「はあ」
「ようするに、正義の味方がハッピーエンドを迎えるのは、戦国武将がさんざん、他の軍の兵士を殺害して、高笑いするのと同じようなものだな、ってことだよ」

なかなか深い会話だ。




で、この本に出てくる悪者たちだけど、伊坂作品にしては珍しく「ホンモノのワル」。これまでオレが読んでる伊坂作品にも、ギャングやら殺し屋やら出てきたけど、みな、どことなく可愛かったり人間味を感じられるような描き方だった。
それが『火星に~』に出てくる悪者は、ホントに悪い奴らだ。
誰が悪いのかって言うと、「平和警察」の連中だ。特に二人の刑事・・・。
容疑者(冤罪なのは明らか)を痛めつけて殺す事に喜びを感じてる変質者だ。

で、ここで伊坂幸太郎は巧妙に「読者の二面性」をあぶり出そうとしてる。
これは解説を書いてる「ぼくりり」氏も指摘してたけど、平和警察の極悪の刑事が殺される場面では、読んでいて胸がスカ~ッとさせられる。
反対に、冤罪や濡れ衣で無実の人が公開処刑される場面では、何とも言えない気分になる。公開処刑を見守ってる見物人たちも、「悪いことをしたんだから当然」って様子で処刑を見守ってる・・・。
「ぼくりり」氏が解説で書いてるのは、

どうやらあいつはろくでもない人間だったらしい、そんな風に噂しながら、期待に満ちた目で被害者を眺める人々の姿は、残酷な拷問を繰り返すエイジに何らかの罰が下されて欲しいと思うぼくたちの姿とそう変わらない。
何の罪もない被害者と残酷な拷問を繰り返していたエイジとは同じではないけど、エイジにも家族や恋人は居たでしょう。
その感情移入させる一切の部分を書いてないのは、この対比に読者を組み込むための作者の・・・云々

そうなんだよね。
これが上手いのだ。

絶対的な正義は存在しない!

だから、作中でこういうセリフも出てくるわけ。

『ヒーローは、目につく不幸な人間を、全員、救わなくちゃいけないのか』って問題です。

 

この小説が書いてるのは「正義の定義」かな。
定義というよりも、「正義のあやふやさ」だろうな。

こちらの正義は、あちらの悪、そんなことはあちこちにある。どんなに正当な罰でも、受けた側からすれば悪、となるからね。だいたい、どんな戦争だって、はじまる時の第一声は同じだと思うよ。
「みんなの大事なものを守るために!」

 

いやぁ、それにしても今回の伊坂作品、拷問の場面はキツかったな。
これまでの伊坂作品とは一線を画す描写と言っていいかも・・・。
読後感だって、ハッピーエンドでヤッター!ってものじゃない。なんか喉に魚の骨が引っかかってるような気分にさせられる一冊。
それだけにラストのセリフが強烈に頭に残る。

世の中は良くなったりしないんだから。
それが嫌なら、火星にでも行って、住むしかない。




いつものバイト君の下書きチェック

バイト君:伊坂さんにしては、ちょっと毛色が違うような・・・

まぁ、易しい言葉で物事の本質を突くセリフは伊坂作品らしいぞ

バイト君:で、恒例の採点は?

う~ん・・・
☆4個だわ!

バイト君:満点じゃないww

一部と二部の煩雑さがなぁ、頭の整理が大変だったし・・・
拷問の場面もエグいし(涙)

バイト君:案外と気が弱いww

・・・・・・

 

そうそう、オレが一番好きな伊坂幸太郎の小説をちょっと紹介。
これ・・・。

四人の大学生を描いた『砂漠』だ。
うちに通ってる子には読ませてるけど、この小説は名言の宝庫だ。
これは、いつも自分に言い聞かせてる、

その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ。

 

このセリフを読んだ時は泣いたな(涙)

俺は恵まれないことに慣れてますけどね、大学に入って、友達には恵まれましたよ。

まだ、伊坂幸太郎を読んだ事が無い人には絶対のオススメ本だ。

 

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コメント

  1. Pago より:

    伊坂幸太郎さん…ほんのちょっとかじっただけですが、書き出しの数行の文章から光っている作家さんだなと感心したことがあります。
    最近は、体力もそうですが、心の力も落ちているのか複雑なものや重い作品を読むことを避けがちでした。心がざわつくものを読むと息切れしそうになるのです。
    だけど、『火星に住むつもりかい?』は、タイトルからして魅力的ですね。。。
    『砂漠』も未読なので気になるところ…。

    余談ですが『トレーニングデイ』を観ました。デンゼル・ワシントンは正義の味方の方がいいですね。
    悪役ぶりに辟易していたのに四面楚歌となり、ラストの激しく銃殺されるシーンでは、妙に悲しくボロボロと泣けました。

  2. masato masato より:

    >Pagoさん
    伊坂幸太郎の『砂漠』は超オススメ。
    友情、恋愛、いろんな要素が詰込まれた大名作。『火星に〜』を70点とすると、『砂漠』は300点!まぁ、オレ基準だけど…。

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