貫井徳郎の小説を初めて読んだのはデビュー作の『慟哭』だった。ラストの大どんでん返し、その衝撃の大きさに腰を抜かして以来のファン。あれから20年近く経つけど、これほど「当たりハズレの少ない作家」は珍しいと思ってる。いくら贔屓にしてる作家でもいろいろと読めば一つや二つは気に入らないものが出てくるものだけど、貫井徳郎の場合はそのリスクは極めて少ない。どの作品も水準以上、充分に楽しめる作品ばかりだ。
今回の『愚行録』も先に小説を読んでいたんだけど、どういう訳か映画の方は観てなかった。観よう観ようと思ってるうちに映画館での上映は終わってたし(泣)
先日、amazonプライム・ビデオを物色してみると幸いなことに配信されていたのでさっそく観てみた。
って事で、今回は貫井徳郎原作の映画『愚行録』の話を書いてみようか。
いつかも書いた事はあるけど人気小説の映画化にはあまり期待しないようにしてる。
どうしても原作と比べてしまうし、オレのこれまでの経験上、原作を超えるような映画には滅多に出会った事がない。原作を超えるどころか、下手をすると原作とは似ても似つかないモノに成り下がってる映画も多いから。
そうは言っても貫井徳郎だろ、『愚行録』だろ、やっぱり期待はしてしまう。
原作を読んだ時の感想をブクログに残してたので引用しておくと、
冒頭に或る新聞記事・・・。
各章の間に挿入される女性のモノローグ・・・。
これらが、ラストの謎の解明で一気に収斂していく様は、さすが貫井ミステリ!!「慟哭」を読んだ時には、ラストでぶっ飛んだけど、こちらのラストは、ぶっ飛ぶ感じじゃなくて、「ほぉ、そうきましたか!」って驚いた。
冒頭の新聞記事が、すごく効いてる!
閑静な住宅地で起こった一家四人惨殺事件。
各章は被害者にゆかりの有る人物へのインタビュー形式で書かれてるが、この形式のために、読んでいて客観的に被害者像を想像しやすい。
ミステリーの謎解きとしてよりも、物語の落としどころに驚いた作品。
とにかく、冒頭の新聞記事の使い方が、ラストですごく効いてる。
かなりの高評価をしてる。
まぁ、読んだ時にそれだけ衝撃だったって事。
謎解きとしてのミステリーというよりも、構成の妙、結末の落としどころに驚いたわけで、辛口のオレにしては☆4個の高評価(限りなく☆5個に近い)
それだけ気に入ってる小説なんだから、期待しすぎは禁物だと思っていてもやっぱり期待してしまうww
ワクワクしながら視聴をスタートしたぞ。
で、いつものように先に結論を書くけど、この映画・・・
期待を裏切らない!
ストーリーの骨格は概ね小説と同じで、エリートサラリーマン家庭の田向一家惨殺事件から1年経ち、事件は犯人が見つからないまま迷宮入り。ある雑誌記者が、田向夫妻の同僚や学生時代の同級生、元恋人などに、夫妻との思い出や人柄についてインタビューしてまわる。すると、一見理想的な夫婦と思われた二人の本性が現れてくる・・・というもの。
事件の後、被害者に縁のある人を記者なり刑事が訪ねてまわるって小説・映画はたまに見かけるけど、『愚行録』が凄いのは訪ねる雑誌記者にもかなりキツい過去を背負わせていること。これがかなり強烈なやつで、最後の最後に明らかになった時には度肝を抜かれる(現実に有りそうな話だからリアル感が半端じゃない)
エリートサラリーマンの円満な家庭が惨殺された事件、一年後に被害者の関係者を訪ねてまわる雑誌記者、そこで浮かび上がるのは被害者の醜い人間性。欲とか野心、嫉妬や妬み、人間の持つそういう醜い面が明らかになっていく。ただ、被害者だけの人間性が醜いのかというと否。雑誌記者に被害者との想い出を語る同級生や元恋人、彼らの人間性も明らかになっていくわけで、もう、どこに善人が居るのか、誰が正しいのか・・・観ていて頭が混乱しそうになるほど。被害者家族の人間性だけを描くんじゃなくて、被害者について語る証言者の人間性も暗に描く事で映画に厚みが出てる(もちろん原作もだけど)。ストレートに描くのは被害者の人間性、それとなく目立たないように描いてるのは証言者の人間性、コインの表と裏を巧みに表現してる。
もうそれだけで面白いのに、そこに雑誌記者個人の話が絡まって来るんだから面白さ倍増するのは当然ww
雑誌記者を演じる妻夫木聡、これが良いんだよな。
熱演と言っても良い。何か過去のありそうな記者をジワ~ッと演じてて、これは過剰演技の一歩手前ぐらいの好演(人によっては過剰って言うかもだけど、オレは好感だった)
2001年の映画『ウィーターボーイズ』で彼を初めて見た時は、まさかこういう演技の出来る俳優になるとは考えてもなかったww 『怒り』を観た時も思ったけど、ただ男前だけの俳優じゃないな。脇を固める俳優陣も好演だし、原作にはなかった小道具の使い方も上手い。この映画を単体で観るとどうなのか分からないけど、原作を読んでる人はいろいろ比べてみて面白さを実感できるんじゃないか。
被害者家族の周辺を訪ねてまわる事でだんだんと明らかになる本性、人間性。彼らの証言で明らかになるのは、まさに被害者の「愚行」と言っても良いものだけど、被害者について語る証言者たちの本性、人間性も顕わになり、こちらも「愚行」の数々と言っても良い。
この映画は、登場人物たちの「愚行」の数々を描写してるわけだけど、極めつけは主人公の雑誌記者の過去・・・。ネタバレになるから書かないけど、これはそ~と~なものだ(泣)
映画の中で、ある人物が言うんだけど、
日本は格差社会じゃないよ
階級社会なんだよ
この映画の中で言われると、ホントにそうなのかもって思ってしまう。そう思わせてしまうパワーがある映画。
高度成長期を経て「一億総中流社会」なんて言葉がもてはやされた事もあったけど、いやぁ、なんとも言えない気分になる映画だww
人間の醜さを描いた点では『何者』に似てるかもしれないな。まぁ、あちらよりも描写は強烈だけど、それだけにインパクトはある。『何者』が細かなジャブを打って来るような映画だとすれば、こちらはジャブ、ストレート、ワンツーと、いろいろなコンビネーションで観る者を惹き込む感じ。
もちろんこの映画はハッピーエンドじゃないし、昨今人気の「イヤミス」に分類されるものだけど、原作同様、見て損はない映画(先に原作を読む事をオススメ)
いつものバイト君の下書きチェック

結局、登場人物全員が愚行をおかしてるという映画?

被害者、証言者、取材者、みんなが愚行なのだ

誰も正しくないと?

正しいとか正しくないとかじゃなくて・・・

なくて?

問題なのは、誰も自分の行動を愚行だと思ってないことだな

へぇ、なんだか面白そうww

観ていても、誰が正しいのか解らなくなるし、何気にこの映画は深いな

て言うか・・・

ぁんだよ?

マサトさんの行動は誰が見ても愚行だらけww

・・・・・・
人間の考える事や行動なんて、自分では意識しなくても他人からみれば愚の骨頂って事もあるし、う~ん、なかなか難しい問題。
まっ、そういう話はキリストやお釈迦様じゃないと解決できないのかもなww









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