若い頃から推理小説(ミステリー)はよく読んでる。
一口に推理小説と言ってもジャンルは様々で、本格モノ、アリバイ崩し、クローズドサークル、倒叙、日常の謎、新本格等々、数え上げたら相当なジャンル数になる。
いろいろなジャンルがある中で特に好きなのは叙述トリックと社会派ミステリー。
現実では実現不可能な大がかりなトリックを使ったミステリ―よりも、言葉巧みに読者をミスリードしてくれる叙述トリックの方がよほど作者の技を身近に感じられて好きなのだ。
それと同じぐらい好きなのが、社会性のある題材をテーマにして小説のリアリティを追求してる社会派ミステリー。
社会派ミステリーといえば松本清張を挙げる人も多いはず。昭和28年に芥川賞を受賞して以来、数々の小説が映画化、ドラマ化された大作家。
って事で、今回は松本清張の『霧の旗』を読んでの感想を簡単に書いてみようか。
松本清張の作品ですぐに思い浮かぶのは『点と線』とか『砂の器』。
何度も映画やドラマになってる大名作(映像化されたものが名作かどうかは別問題)
先日、なんとなく硬派のミステリ―を読みたくなった。最近はSFとかエッセイを読む事に集中してて硬めのミステリ―とはご無沙汰してたし・・・。
こういう時のために役に立つのが積読ww
本屋に入るたびに気になる本を買っては部屋の片隅に積み上げてるんだけど、その中から選び出したのが、これ・・・。
松本清張『霧の旗』
かれこれ3年以上積読の中に埋もれてたww
買ってきた時にはすぐに読もうと思ってるんだけど、何だかんだで他の本を読んだりしてるうちに積読の底の方に押しやられてた。
考えてみれば社会派ミステリーもしばらく読んでないし、松本清張の小説自体も10年ぶりぐらいかもしれないな。
まぁ、それだけ長い間ご無沙汰してると、久しぶりに読んでみたくなるのも当たり前か・・・。
久々の松本清張、一晩で読了。
この小説は昭和34年に『婦人公論』に連載されたものだけど、本屋に行けば今でも文庫本を手に取ることが出来る松本清張の人気作の一つ。
先に感想を書くと・・・
女は恐ろしい!(泣)
もちろん世の中の女性全員が恐ろしいって言ってるんじゃないぞ。
この小説に出てくる女性が恐ろしいって事なんだけど、なんだか女性の持ってる「ある種の特質」みたいなものを感じてしまった。
どういうストーリーなのかを文庫本の背表紙から引用すると、
殺人容疑で捕えられ、死刑の判決を受けた兄の無罪を信じて、柳田桐子は九州から上京した。彼女は高名な弁護士大塚欽三に調査を懇願するが、すげなく断わられる。兄は汚名を着たまま獄死し、桐子の大塚弁護士に対する執拗な復讐が始まる……。
それぞれに影の部分を持ち、孤絶化した状況に生きる現代人にとって、法と裁判制度は何か?を問い、その限界を鋭く指摘した野心作である。
無実の罪で逮捕された兄を救うために高名な弁護士を訪ねる主人公。
様々な事情(弁護士費用等)から依頼は断られるわけだけど、そうこうしてるうちに兄は獄中で病死。
この辺りから主人公の怖さが少しずつ描かれてるんだけど、読んでいてビビッたのは主人公から弁護士に送られた手紙。そこには「兄は強盗殺人の汚名のまま死にました」と書かれてるわけ。
弁護を断られたからといって・・・
兄の死を知らせる手紙をわざわざ出すか?
何だか常人とはちょっと違う匂いがプンプンしてきて恐ろしい。
弁護士が主人公の依頼を断ったのは弁護士費用の事もあるけど、実際に多忙だった事、その日は他に大事な用事(デートなんだけど)があってゆっくり話を訊く時間が無かった等、致し方ない面が多々あるのに・・・。
アポ無しでいきなり訪ねて、あげくの果てに手紙を送り付けるとか、う~ん、恐ろしい・・・。
そうこうしてるうちに新しい殺人事件が発生。
今度は弁護士の愛人が無実の罪で逮捕されてしまうんだけど、いやぁ、復讐劇がこんな感じで進展するとは・・・。
主人公が何か直接手を下すわけじゃない。
真綿で首を絞めていくような、何ともジメジメした復讐。実の兄を無実の罪で逮捕された恨み、悲しみ、憤りがある事はわかる。
わかるけど・・・
偏執的!
だけど、松本清張の小説が凄いのは、一方的な視点に立って書いてない。
主人公の事情・言い分、復讐される側の弁護士の事情・言い分もフラットに書いていて、どちらに肩入れするかは読者次第。
何が一番怖いかって、オレはこの主人公と同じような境遇になった事はないけど、こういう境遇になったらオレも同じような行為をするかもしれないと思わせるところ。
妙にリアリティがある。これこそが社会派ミステリーの醍醐味。
リアリティといえば巻末の解説に松本清張の言葉が紹介されてた。
引用しておくと、
いままでの推理小説は、ピストルが鳴ったり、麻薬の取り引きがあったり、簡単に人が殺されたり、われわれの日常生活にはまず無縁なことが書かれております。ところが、そういう荒っぽい、こわがらせを眼目にしたような小説は、実は本来からいうと、ちっともこわくない。それよりも、生活に密着した、われわれ自身がいつ巻きこまれるかわからないような現実的(リアル)な恐ろしさを描いたほうが、どんなにそれが淡々と静かな文章で書かれていても、ずっと大きな戦慄を感じさせることになるのではないかと思います。
たしかに普通に生活してる一般人にはピストルも麻薬も無縁。
そんなものよりも、いつ巻き込まれるかわからないリアルな恐ろしさを読む方がよほど怖い(泣)
さすが松本清張、何が一番怖いのかわかってる・・・。
で、話を『霧の旗』に戻すと、この小説はハッピーエンドじゃない。
まぁ、無実の人間が逮捕されて獄中で病死してるんだから、ハッピーエンドになるわけもないけど。
じゃぁ、真犯人は誰か?って話になるけど、これは明かされてない。それとなく匂わせてはいるんだけど、ハッキリと「こいつが犯人」と示してない。
この小説の肝は「犯人が誰か?」よりも、裁判の制度、司法警察の在り方、冤罪で逮捕された家族の苦しみなんじゃないかと思ってる。読む人によっては消化不良に感じるかもしれないけど、これはこれで余韻のある結末でオレ的には全然OKだった。
いつものバイト君の下書きチェック

ご満足のようでww

大満足だわ^^
さすが松本清張、読ませてくれるわ

ベタ褒めww

お前も読め!

これ映画になってないんですか?

・・・・・・

読むのは面倒なので映画の方を観ます^^

・・・・・・
ったく、活字離れも深刻な問題だな。
いくら映画化されたからって言っても、小説には小説の良さがあるのに・・・。
映画を観て「原作を読んだ気になろう」ってのは違うような気がする。
とはいえオレも映像化されてるものは興味ある。
で、調べてみたんだけど、この『霧の旗』は過去に映画化が2回(1965年と1977年)、テレビドラマ化は9回(最近では2014年)
1965年版の映画は山田洋次監督、キャストに倍賞千恵子、市原悦子と豪華メンバー。
amazonプライム・ビデオで配信されてるようなので、後で観てみよ・・・。








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