ここ数年、中国のSFがちょっとしたブームになってるらしい。
読書に限らず世の中の流行りからはいつも周回遅れのオレなので、ブームになってる事は知っていてもなかなか中国産のSFには手が出なかった(他にも読みたい本は多い)。
慌てて中国のSFを読まなくても良いだろ
って感じで読んでなかったわけだけど、周りの連中があまりにも薦めてくる。
そこで仕方なく話題作の『紙の動物園』を読んでみた。
いやぁ、これは面白かった、って言うか・・・泣けた。まさか中国SFがここまで奥深いものだとは・・・。その辺りの事は以前の記事にも書いた通り・・・。
【読書】深い余韻の残る短篇集『紙の動物園』/おじさんは泣いた!って話
この『紙の動物園』を読んで思ったのは、
中国SF、侮れない!
まぁ、『紙の動物園』の作家ケン・リュウは中国生まれのアメリカ在住なので、厳密に中国SFと言えるかどうかは微妙なところだけど(作品には中国風味が満載)、これだけ面白いSFがあるのなら他の中国SFも読んでみたい。
そこで、ケン・リュウが厳選したアンソロジー『折りたたみ北京』を読んでみた。
こちらはケン・リュウが中国在住の作家7人の13篇を1冊にまとめたもので、中国SFブームの一翼を担うベストセラー。
って事で、今回は『折りたたみ北京』を読んでの感想を簡単に巻いてみようか。
実は、本屋に行くまでは話題の劉慈欣『三体』を読もうかと思ってた。
だけど、実物を見てちょっと躊躇。
三部作と言うだけあってハードカバー3冊の分量はかなりのもの(しかも1冊のお値段が2千円超ww)
こういう場合、オレの方針は・・・
文庫になるのを待つ!ww
いくら興味津々で読みたい本でもよほどの事じゃないとハードカバーは買わない。
とは言っても、中国SFは読みたい。
まっ、他にも話題になってる中国SFはある。文庫のコーナーを覗いてみると目立つ場所に平積みされてたのですぐに見つかった。
これ・・・。
折りたたみ北京
帯には現代中国SFのすべてがわかるアンソロジーと書かれてる。
さっそく購入して収録作13篇を4日で読了。
まぁ、アンソロジーとは言っても13篇もあると、どうしても好き嫌いが出てくるのは仕方ない(好き嫌いというか、SFなので理解出来るか出来ないかと置き換えても良い)。
いつものように先に全篇を通しての感想を書くと・・・
面白い!
これなら文庫本1,000円の価値は充分。
以下、お気に入りの小説の感想を簡単に書いてみよう(13篇全部は疲れるww)
まずは文庫本の背表紙に書かれてる紹介文を引用すると、
天の秘密は円のなかにある――円周率の中に不老不死の秘密があると聞かされた秦の始皇帝は、五年以内に十万桁まで円周率を求めよと命じた。学者の荊軻は始皇帝の三百万の軍隊を用いた驚異の人間計算機を編みだす。劉慈欣『三体』抜粋改作にして星雲賞受賞作「円」、貧富の差で分断された異形の三層都市を描いたヒューゴー賞受賞作「折りたたみ北京」など、ケン・リュウが精選した7作家13篇を収録の傑作アンソロジー。
と、興味をそそる文章が書かれてる。
文庫本の背表紙なんて、誉め言葉を羅列しただけの詐欺まがいの紹介文も多いけど、この紹介文は誠実。
どんな内容なのか読んでみたい気分にさせるし、読んだ後でも損した気分にならないww
まず挙げておきたいのは劉慈欣『神様の介護係』。
中国の山村を舞台に宇宙人と人間の交流(?)を描いたもの。所々にクスッと笑わせる描写が有るんだけど、書かれてる内容は深い。人類の起源、進化というSFでは定番のテーマに「介護」という現代ならではの問題を絡ませてるののは新鮮。アーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』に通じる深淵なテーマへの逆アプローチと言える傑作。
続いては同じく劉慈欣『円』。
背表紙の紹介文にも書かれてる古代中国の話だけど、いやぁ、この着眼点は凄いいとしか言いようがない。世の中の事象は数学的に解決できる(0と1で表せる)との学者の説に則って、秦の始皇帝が始めたのは三百万の兵隊の一人々々に0と1の役割を与えて計算機にする事。はたして円周率を十万桁まで求めることが出来るのか・・・。
古代中国と現代的なコンピューターの組み合わせに仰天した。
馬伯庸『沈黙都市』も推進力のある秀作。
表現の自由が極度に制限された未来、人々は「リスナー」という携帯装置を装着する事を義務付けられ、当局にとって好ましくない表現・単語を発する事は禁じられてる。これは焚書を扱ったレイ・ブラッドベリの『華氏451 』へのオマージュとも言えそう。「熱」、「暖房」という単語さえ要注意語になったディストピア、禁止語が増えれば増えるほど、それに対抗して表現の数が増えていく・・・。作中、オーウェルの『1984』も出てくるけど、描かれてる世界はまさに『1984』。
表題作の郝景芳『折りたたみ北京』もディストピア小説。
未来の北京を舞台にしたものだけど、ここに描かれてる北京は時間によって折りたたまれる北京。第一スペース、第二スペース、第三スペースに分けられた北京は貧富の差によって住むスペースが決められてる。ここで目を惹くのは貧富の差によって分けられてるのは住むスペースだけじゃないって事。時間までも差別化されてる絶望的なディストピア。第一スペースに住む富裕層は24時間の活動の後、24時間の眠りにつく。第一スペースが眠ってる間、第二スペースの中間層は16時間の活動、最貧民の住む第三スペースの活動時間は8時間しかない(そのほとんどを労働に充ててる)。貧民層になるほど人口が多いのも皮肉が利いてる。ラスト、主人公の心情が書かれてる部分はちょっと泣けた・・・。
その他、遺伝子改良されてペット化されたネズミ、脱走して暴れ回るネズミを追う軍隊を描いた『鼠年』も読み物としては面白く読めた。良い就職先を勝ち取るためにネズミ駆除の軍隊に志願した大学生の視点で描かれた物語だけど、いろいろな方面から深読みできそうな内容は一筋縄でいかない。
って具合に、収録されてる作品には概ね満足してるんだけど、う~ん、13篇もあると中には「?」な作品も・・・。まぁ、オレの読解力、想像力の問題なんだろうけどww
例えば夏笳の『百鬼夜行街』、『童童の夏』、『龍馬夜行』って・・・
SFなのか!?ww
『百鬼夜行街』なんてオレには気味の悪い怪奇小説、幻想小説に思えるけど。
良く言えばファンタジーだけど、う~ん、この手の話はどうも好みじゃないな。
そもそも帯には現代中国SFのすべてがわかるアンソロジーって書かれてるんだけど、これらをSFに括るかどうかはそれぞれの判断なんだろうな(オレはSFとは思いたくないけどww)
『コールガール』や『蛍火の墓』のように一読だけじゃ理解出来ないものも有ったけど、『麗江の魚』や『沙嘴の花』のように中国の匂いをプンプンと感じさせる秀作も収録されていて、充分に水準以上のアンソロジーだと言える(これなら1,000円は惜しくないww)
いつものバイト君の下書きチェック

やっと『折りたたみ北京』を読んだんですか
ホントに周回遅れww

うっさいな!
世間のブームに左右されないのがオレ式!^^

まっ、お気に召したようでなにより

まさか、ここまで面白いとはな
驚いたわ^^

ハードカバーの『三体』も買いたくなったでしょww

うむ、買おうかと前向きに考慮中だわ

買ったら貸して!

・・・・・・
やっぱり国に勢いがあるとSFは面白い。
50~60年代のアメリカSF、60~70年代の高度成長期の日本のSFは名作ぞろいだけど、2020年代の今、中国の勢いは誰もが認めるところ。SFってのは国に勢いがないとなかなか良いモノが生まれないと思ってるけど、今の中国SF、かなりアツいことは間違いなさそう。
次に読む予定の『三体』ではどれだけ驚かせてくれるのか、今からワクワクしてる。
そうそう、今回の表題作『折りたたみ北京』は実写での映画化も企画が進行中らしい。都市が折りたたまれる様子をどうやって映像化するのか、こちらも今から楽しみ。
しばらくはアツい中国SFの時代が続きそうな予感。










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