【読書】絶望とは愚か者の結論/高校生たちの夏が眩しい『青ノ果テ』に拍手!って話

いやぁ、良いものを読んだ。
以前、『月まで三キロ』という短篇集を読んでからというもの、作者の伊与原 新の事は気にかかっていたんだけど、先日、2冊目の本を読了。
今度は短篇集じゃなくて、新潮文庫のために書き下ろされた一冊。
ネットではかなりの高評価が並んでるし期待して読み始めたんだけど、うん、期待を裏切らない出来ばえ。
相当に満足度の高い小説だった。
何を読んだのかというと、これ・・・。

副題に「花巻農芸高校地学部の夏」とあるように、こちらは高校生を主人公にした小説。
この小説に描かれてる高校生たちの姿、なんとも純粋で美しくて、そして強い。
これまでに青春小説と呼ばれるものはいくつも読んでるけど、お気に入りの一冊になったぞ。

って事で、今回は伊与原 新の『青ノ果テ―花巻農芸高校地学部の夏―』を読んでの感想を軽く書いてみようか。

 

 

この小説は岩手県花巻市の高校生たちが主人公。
彼らが通う花巻農芸高校は架空の高校だけど、モデルになってる高校があって、それは宮沢賢治が教師をしていた花巻農学校。
もちろん宮沢賢治の作品がこの小説の重要なモチーフになってる。
どういうストーリーなのかを文庫本の裏表紙から引用すると、

僕等は本当のことなんて1ミリもしらなかった。
東京から深澤が転校してきて、何もかもおかしくなった。壮多は怪我で「鹿踊り部」のメンバーを外され、幼馴染みの七夏は突然姿を消した。そんな中、壮多は深澤と先輩の三人で宮沢賢治ゆかりの地を巡る自転車旅に出る。花巻から早池峰山、種山高原と走り抜け、三陸を回り岩手山、八幡平へ。僕たちの「答え」はその道の先に見つかるだろうか。「青」のきらめきを一瞬の夏に描く傑作。

東京から一人の高校生が花巻農芸高校に転校してくるところから物語はスタート。
地学部の立ち上げ、幼馴染みの七夏の失踪(家出)、宮沢賢治ゆかりの地を巡る2週間の自転車旅・・・こういった流れで物語は進むわけだけど、ここに思春期らしい瑞々しい感情の揺れが描かれていて、読んでいるオレまで若返るような気分。
ちょっとしたミステリー味も加味されていて、読んでいて飽きが来ない、というよりもページをめくる手が止まらない。
深澤はなぜ東京から転校してきたのか、初対面のはずなのにどうして七夏の名前を知っていたのか、そういう小さな謎をはらんだまま自転車の旅が始まる。
深澤に良い印象を持てない壮多(多分、ヤキモチが半分)は、なんだかんだで地学部に入り、先輩と深澤と自転車の旅へ・・・。
この小説全体を通して宮沢賢治の詩や小説が引用されてるけど、特に『銀河鉄道の夜』が重要な役回りをしてる。まさにこの小説を支える骨格とも言えるんじゃないか。

 

もちろん最後には深澤が転校してきた謎、七夏が家出した謎も明らかになるし、気分の良いハッピーエンド。
作者は読ませ所・泣かせ所も心得ていて、地学部の部長が体育館で演説をした場面、壮多がアンモナイトの化石を地学部の部長に渡す場面、山で遭難しかけた時の深澤と壮多の会話・・・

オレは泣いた!

まぁ、さすがに号泣じゃないけど、高校生らしい瑞々しさには心を打たれる。
まさに青春小説だな。
物語の中盤、深澤が壮多にこんな事を言うシーンがある。

深澤の目つきが急に真剣味を帯びた。
「絶望ってのはさ、江口」したり顔をして言う。
「愚か者の結論だぜ」

『銀河鉄道の夜』が表の骨格とするなら、この言葉はこの小説の裏の骨格といえるんじゃないか。
それぞれの悩みを抱えてる高校生たちが、どうやって『青ノ果テ』を見つけるのか、これがこの小説の最大の肝。

 

ラスト近く、土砂降りの中、遭難しかけて崖の裂け目に避難してる深澤と壮多の会話も泣けた・・・。
ちょっと長いけど引用してみようか。

「今回はこんなことになったけど、ほんとは一緒に行きたかったんだ。だから地学部に佐倉さんを誘ったし、この巡検で裏岩手縦走を提案した」
「一緒に行きたかったって、七夏とか?」
「いや」
「三井寺先輩か?」
「違う」
深澤がこっちを真っすぐ見た。
「江口だよ」
「俺?」
「〝銀河鉄道の丘〟を見に行くなら、ジョバンニの息子と一緒がいい」

これ、未読の人には意味不明だろうけど、ラスト近くでのこの言葉はオレの心にかなり刺さったな(泣)

この小説、なんとなく恩田陸の『夜のピクニック』と雰囲気が似てる気がする。
どちらも高校生が主人公、舞台となるのはあちらは24時間の歩行祭、こちらは自転車旅で同じような非日常の世界、ちょっとした謎を孕んで物語が進行するのも似てる。
そして何よりも似てるのが読後感。
読んだ後で何だか幸せな気分になる。
設定の甘さ(やや強引な部分)は青春小説の不朽の名作『夜のピクニック』には及ばないけど、これだけの幸せ気分を味わえる青春小説、ほんと、良いものを読んだ。

 

 

いつものバイト君の下書きチェック

バイト君
バイト君

すごい褒めてる
珍しいww

マサト
マサト

珍しくないだろ
良いものは褒めるのだわ^^

バイト君
バイト君

何がそんなに良いんです?

マサト
マサト

高校生たちが瑞々しくて純粋なのがエエわ^^

バイト君
バイト君

それ、自分が汚れきってるから憧れてるんですか?

マサト
マサト

・・・・・・

 

高校生が主人公といえば、佐藤多佳子の『一瞬の風になれ』も超傑作。
陸上に打ち込む高校生の姿がオジサンには眩しすぎた。
何年か前は青春小説ばかり読んでた時期もあったけど、久々に青春小説にハマりそうな予感がしてる。

 

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再読してみた。やっぱり名作だよね。
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