【映画】人が生きる意味を問う『あん』。樹木希林の演技に涙が零れた!って話

評判になってた映画だし、観よう観ようと思ってたけど見逃してた映画、それが今回の『あん』
2015年公開の日本・フランス・ドイツの合作映画だけど、早くもAmazonプライム・ビデオで配信されてた。観たかった映画だし、そりゃ、観るでしょ。
この映画、映画館で観なくて良かった・・・。
だって、映画館で観てたら涙腺決壊して、

椅子から立てなかったはず!

それぐらい胸に迫るものがあった。
これね、ただのお涙頂戴ものじゃなく、「触れられたくない日本の歴史」にも光を当ててる映画なんだけど、いろいろ考えさせられる事も多い映画だった。

って事で、今回は樹木希林の最後の主演映画『あん』について思うところを書いてみようか。

 




 

オレの周りでも評判になってたし、評判になるって事は「ある程度のストーリーの流れ」も耳に入ってくるわけで、まったくの予備知識無しって状態で観たわけじゃないけど、いやいや、この映画、少々の予備知識なんか吹っ飛ばすパワーのある映画だった。
何が凄いって、主演の樹木希林と永瀬正敏の演技。派手なアクションが有るわけでもなく、大声で叫ぶようなシーンもない、ごくごく「普通の人」を演じてる。
常々思ってるんだけど、

普通の人を演じるってのが、役者にとっては一番難しいんじゃないか?

アクションで暴れたり、やたらめっったら大声を出すのは、そこらの大根役者でも出来るけど、「普通の日常を演技」する事は難しいと思ってる。普段の生活を描写する中で役柄になり切って演じるわけだし、それこそ別な人格を表現するのはジャニタレなんかじゃ無理だろ。
まだ観た事の無い人も居るかもなんで軽くストーリーの流れを公式サイトから引用すると、

縁あってどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしていた千太郎(永瀬正敏)。そのお店の常連である中学生のワカナ(内田伽羅)。ある日、その店の求人募集の貼り紙をみて、そこで働くことを懇願する一人の老女、徳江(樹木希林)が現れ、どらやきの粒あん作りを任せることに。徳江の作った粒あんはあまりに美味しく、みるみるうちに店は繁盛。しかし心ない噂が、彼らの運命を大きく変えていく…

というストーリー。
どら焼き屋の店長を演じる永瀬正敏、何か事情がありそうなんだけど映画の中盤までは明らかにされない。何でどら焼き屋の雇われ店長なんかやってるんだ?っていう疑問。永瀬正敏の鬱屈した表情が良いんだよなぁ。
そんなところへ徳江と名乗る老婆が現れてどら焼き屋で働く事になるんだけど、この両者の対比がコントラストになってる。何か鬱屈してる永瀬正敏と何事にも逆らわず飄々としてる樹木希林。
徳江のつくるあんは美味しく、店には行列が出来るほどになるんだけど、よからぬ噂が広まるわけ。

あの店のどら焼きはハンセン病患者が作ってる・・・

という噂。
急に客足が遠のいた事で、自ら身を引いて店に来なくなった徳江。
徳江の事を人間として好きになり始めていた永瀬正敏が取った行動は・・・って話。

 

ハンセン病患者という噂は本当の事で、徳江はハンセン病患者の療養所からどら焼き屋に通ってたわけなんだけど、ここら辺りは「触れられたくない日本の歴史」に正面から光を当ててる。
昔はらい病と呼ばれていたけど今ではハンセン病という方が一般的に知られてるかもしれない。九州のホテルが元ハンセン病患者の宿泊を拒否したってニュースが10年ぐらい前にあったけど、今でも偏見と誤解の渦中にある病気。
悪化すると皮膚や体の一部が変形したりする病気だけど、問題なのは「人に感染する」と信じられていた点。たしかに感染する事もあるけど、「らい菌」の感染力は非常に弱く、たとえ感染したとしても発病する事は極めて稀な病気。

映画の中では徳江の腕や指を見た客から噂が広がるんだけど、「触れられたくない日本の歴史」ってのは、

ハンセン病患者を隔離してた事!

昭和6年に患者の隔離政策を定めた「癩予防法」が成立して、半ば強制的に隔離されるようになったわけ。日本中に療養所という名の「隔離施設」が出来たのもこの頃。
この法律、信じられない事に平成8年(1996年)に廃止されるまでずっと存続してた。

1996年だぞ!

戦争前に出来た法律が平成8年まで有ったって言うんだから、どれだけ誤解や偏見、差別があったか想像に難くない。
療養所内での結婚も、条件として「子供を産めないように手術」する事が強制されたり、まさに人権侵害も甚だしい。
犯罪者を収容する刑務所は犯罪者の「自分の責任」で入れられてる訳だけど、ハンセン病の患者は違うだろ。何も悪い事はしてない、ただハンセン病に罹ったというだけで療養所に入れられる・・・。現在でも10を超える施設が日本に有って、元ハンセン病患者たちが暮らしてるそうだけど(約2千名以上)、隔離が目的だったために、その多くは交通の不便な場所にあるそうだ。

 




 

どら焼き屋の事を思い、世間からの目を気にして身を引いた徳江から千太郎(永瀬正敏)の元に手紙が届けられるんだけどね。
この手紙は泣けたなぁ・・・。
療養所を訪れる千太郎、徳江との再会、もう、最高の演技。
患者が作ったお汁粉を食べるシーンは胸に響いたぞ。
だって、エラソーな事を言ってるオレだって、ハンセン病患者の作ったお汁粉を食えるかどうか自信ない。
もちろん感染する危険は限りなく低い、清潔だって解ってても、いざ、ハンセン病の患者に食べ物を出されたらどうするか・・・。これこそ差別精神だろ。どら焼き屋の客の事を笑えない。

オレもどら焼き屋の客も変わらないじゃないか。

映画の中、美味しいと言って食べる千太郎、それを嬉しそうに見つめる徳江。

こんな泣けるシーンは滅多にない!

徳江が千太郎に言って聞かせる言葉があるんだけど、こういう事を言ってた(映画のポスターにも書かれてるんだけどね)。
この映画の肝は、まさにここだな。

私たちはこの世を見るために、
聞くために、生まれて来た。
・・・だとすれば、何かになれなくても、
私たちには、生きる意味があるのよ。

子供の頃に療養所に連れて来られて、そこで50年以上も暮らしてきた徳江の言葉だけに重みがある。

映画のラスト、何かが吹っ切れたように花見の屋台でどら焼きを売る千太郎。
事情があってどら焼き屋の店長を辞める事は出来ないけど、「そこから見える景色」を逃げずに真正面から見ようと決意したような表情。
余韻の残るラストだった・・・。

 

そうそう、ちょっとした役なんだけど、どら焼き屋の常連客の女子中学生を樹木希林の孫娘、内田伽羅が演じてる。
孫娘ってんだから、もちろん元シブがき隊・本木雅弘の娘なんだけど、この子がなぁ・・・

微妙!ww

下手じゃないんだけど、上手くもないww
この映画、この子が居なくても成り立つんじゃないか、なんて思ってしまった。
ただ、この子が飼ってるカナリアが徳江と千太郎の境遇を投影してるんだよね。逃げ場のない鳥籠の中ってのは、ちょうど千太郎と徳江の境遇。映画ではカナリアは鳥籠から出されて外へ出て行くけど、これは「ありがちな演出」ww
てか、内田伽羅だけど、うん、お父さんの本木雅弘に似てるなww

まぁ、この映画が良い映画なのは間違いない。
いろいろと考えさせられる映画だし、まだ観た事のない人にはオススメ。

 




 

同居人の下書きチェック

同居人
同居人

アンタ、目が真っ赤だったのだわww

マサト
マサト

ちと泣いたからな

同居人
同居人

凄いのだわ!

マサト
マサト

何がだよ!?

同居人
同居人

『火垂るの墓』を観ても泣かなかったのに!ww

マサト
マサト

・・・・・・

 

たしかに『火垂るの墓』では泣いてないww
そりゃ、可愛そうだとは思うけど、どうしても涙が出なかった。

出ないものは仕方ないだろ!ww

この『あん』では日本におけるハンセン病患者の苦難が一つのバックボーンになってるんだけど、日本映画でハンセン病と言うと、これも忘れちゃいけない。
松本清張原作の『砂の器』だ。
これまでに何度も映像化されてるけど、加藤剛、緒形拳の映画が一番素晴らしい。特に子役の演技力は度肝を抜かれる。父親を庇う時の表情、目力・・・日本映画史に残る子役の名演技だと思ってる。

世の中は「楽しい事」や「面白い事」がもてはやされる時代だけど、ハンセン病患者の隔離政策という、恥ずべき歴史が日本にもあるって事を知っておいても損は無い。
てか・・・

知っておくべき!

 

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